経営に対する考え方と相乗効果が重要となるマッチング
本連載の第4回で紹介した「承」の段階で作成した企業情報をもとに、売り手企業と買い手企業の「③マッチング」から「④買い手提案」、さらに「⑤交渉」をしていくのが起承転結の「転」にあたる作業です。
すべての段階における手順と実務が重要なのは当然ですが、このマッチングから交渉に至る実務は、M&Aの成否のカギを握る核の部分といっても過言ではありません。我々M&Aコンサルタントは、売り手と買い手双方の企業にとって一番メリットがある最適な組み合わせを常に考えながらマッチングの作業を進めていきます。
マッチングにおいて、M&Aの相手企業を探索する場合に、まず一番に経営に対する考え方が合うかどうか、次にシナジー効果(相乗効果)の有無が重要です。
マッチングを進める際、日本M&Aセンターでは、売り手と買い手で担当者をそれぞれ分けています。まず初めに、売り手側の担当コンサルタントが売り手企業の案件化を完了させると、譲渡先企業の希望などを聞いた後、社内の会議で提案します。
次に、買い手会社の担当コンサルタントたちは、弊社に登録されている膨大な登録リストの中から、マッチングしそうな企業をリストアップしていきます。そうして作られるのが「持ち込み先リスト」(ロングリスト)です。数千社にも及ぶ買い手希望会社のデータの中から相乗効果や会社の将来性、マーケットの動向などを考えながら160人以上のコンサルタントが候補企業をピックアップします。
その後、有価証券報告書などの企業資料から調査し、マッチングの可能性の高い買い手企業を一定条件で絞り込んでリストアップします。これを「ショートリスト」と呼んでいます。通常は50社以上、人気のある売り手企業の場合は100社以上にもなることがあります。
しかし、リストはこのままでは売り手企業の社長に提出はせず、さらに絞り込んでマッチングの精度を高めます。より多くの情報の提案を求める経営者もいますが、M&Aの相手選びで候補数が多すぎると混乱を招きます。この絞り込み作業は、担当コンサルタントの腕の見せ所といったところです。
売り手企業のマイナス面もすべて情報開示する
では、次に視点を変えて、買い手企業へのアプローチを見ていきましょう。
M&Aコンサルタントによってリストアップされた企業に対し、前述の「ノンネームシート」で提案します。「ノンネームシート」に興味を持ち、さらに検討したい場合、前回もお話ししたように「秘密保持契約」を結びます。内容は、秘密を保持すること、情報をM&Aの目的以外には使わないこと、買い手企業の検討メンバーを限定することなどが盛り込まれています。
秘密保持契約を締結すると、買い手候補の企業には「提案書」と数十ページに及ぶ「企業概要書」が提供されます。前述のように、「企業概要書」は社名を含めた次のような情報がまとめられています。
●会社名
●会社沿革
●事業内容(商品・サービス)
●強み・弱み/機会・脅威
●組織・組織のキーパーソン
●事業のフロー
●得意先・仕入れ先
●財務状況
●所有資産に関する補足
買い手企業が求めていることは自社の成長が可能となるM&Aですから、M&Aコンサルタントは見込めるシナジー効果や成長戦略についてお伝えします。売り手企業のマイナス面があれば、そのリスクについても明確にお伝えします。滞留在庫や簿外債務といったさまざまなマイナス要因が企業にはつきものですが、すべての情報を提示します。
買い手企業は事前にその情報を得て理解しておくことで、後々のトラブルを未然に防ぐことができるからです。また、トラブル防止だけでなく、売り手と買い手のお互いの信頼関係が深まり、M&A後の融合もスムーズに展開してより大きなシナジー効果を得られるようになります。そのためにも、売り手企業の社長には、企業評価の段階で、できる限りの情報提示をお願いしています。
次に、「企業概要書」を見て前向きにM&Aの検討を進めていく場合、買い手候補企業とは「提携仲介契約」を結ぶことになります。この契約書には成功報酬責任範囲などが明記されています。
この締結後、本格的な商談がスタートとなります。この段階で売り手と買い手の双方が同じステージに立って交渉を進めていくことに合意するという意思確認をします。真剣ではない会社は、ここから先には進めません。締結が済んだ段階で、買い手候補の企業には個別詳細資料として、売り手企業の案件化の際に収集した資料の大半を提供します。
以上、ここまでが書類上の検討ですが、いよいよ次の「⑤交渉」では社長同士のトップ面談や会社見学など、実際に顔を合わせての交渉が始まります。
【図表 数千社の中から50社以上をリストアップしM&Aの相手を決めるまでの流れ】