書類だけで価値観や理念を理解することはできない
本連載の第4回で紹介した起承転結の結に該当する、「⑤交渉」におけるトップ面談は、結婚の中ではお見合いにあたるものです。
ここまで両社の社長は、まだ会っていません。相手のプロフィールや写真を見て検討してきた段階ですが、ここで初めて顔を合わせることになります。資料を見るだけでわかることはありますが、両社のトップ同士が実際に会って対話をすることで初めてわかることは多いものです。書類だけでは相手の魅力や欠点、これまでの歩みを納得いくまで知ることはできないので、実際に面談することが重要になります。
初回の面談は、ホテルの会議室などで行われます。ここではまだ株価など条件面の細かい話はしませんが、まずはお互いの人となりや経営に対する理念や考え方を確認し合います。
買収してから企業文化を変更していくことは大変リスキーなことであり、またそう簡単に変更できるものでもありません。人間の結婚と同じで、個々のカラーはどちらが良いとか正しいとかの問題ではなく、価値観や理念や生き様の問題となってきます。それを確認するのがトップ面談です。
トップ面談は納得がいくまで何度でも行う
一回の面談だけでは、当然、お互いの企業文化や経営理念を理解しきれるものではありません。よって、トップ面談は納得がいくまで行います。トップ面談のおおよその流れとしては、お互いの自己紹介と自社紹介、会社譲渡を決意した理由、買い手側が売り手側に興味を持った理由、今後の相乗効果を含めた未来像などについてお話ししていただきます。
トップ面談の前には、あらかじめ売り手と買い手の社長とはそれぞれ、担当のコンサルタントが入念な打ち合わせを行います。トップ面談ではどこまで聞いていいのか、またこの段階で聞くべきではないこと、トップ面談の段階で話しておいたほうがいいことなどについて打ち合わせをします。
買い手企業の社長は、「何か隠れた問題はないだろうか」と気になることもたくさんありますから、売り手企業の社長は隠し事をせずに、できるだけ正直に何でもお話しすることが大切です。そこからお互いの信頼関係が生まれてきます。
売り手企業の社長としては、本当に自社を託せる相手なのか慎重に見極めようとします。ですから買い手企業の社長も正直に誠意を持って接し、応えることが望まれます。
理念やトップの人間性が合わないと将来的に失敗する
この面談で、お互いの相性や価値観、経営理念などが共有できれば次のステップに進みます。お互いに初回の面談から意気投合して相思相愛となる場合もありますが、価値観を共有できなければ「破談」ということになります。
次のステップで、お互いの会社訪問や工場見学などを行います。活気のある会社か、社内は整理整頓されているか、社員教育は行き届いているか、工場の設備は最新鋭のものかなどを確認します。売り手企業も買い手企業も社長は経営のプロですから、これらの様子を見ればその会社のおおよその状況が把握できるはずです。
この段階まで進めば、意気投合していることが多く、大抵は見学後、会食になります。社長だけでなく奥様も同席されてお話ししていただくこともあります。会食では、経営理念など仕事の話以外にも、自分の体験談や人生観などをリラックスした雰囲気で話ができるので、お互いに理解を深めることができます。
たとえ金額的に折り合いがついていても、また、相手企業の事業に魅力を感じていても、経営理念やトップの人間性が合わなければ会社が統合してもうまくいかないことが多いものです。会食などを通じて、積極的にコミュニケーションをとっていくことが大切です。
【図表 トップ同士のお見合い】