前回は、M&Aの交渉における「トップ面談」について取り上げました。今回は、最終契約前に行う買収監査(デューデリジェンス)について見ていきます。

売り手企業の内部に深く踏みこむ「買収監査

お互いの気持ちを確認できたら、株価や役員退職金、譲渡後の経営体制や社員の継続雇用、処遇など細部の条件交渉に入っていき、「基本合意契約」の締結、または「意向表明書」の提出に進んでいきます。これは、最終契約に向けた直前段階のものです。トップ面談から、およそ1、2カ月で合意に達するのが一般的です。

 

この基本合意契約はほとんどの条文に法的拘束力を持たせないのですが、よほどのことがない限り最終契約まで進むことが前提であるため、覚悟を持って契約に臨む必要があります。というのは、この後に買収監査(デューデリジェンス)を行い、売り手企業の内部に深く踏み込んでいくからです。

 

デューデリジェンスは、英語でDueDiligenceと表記されます。M&Aでは略称で「デューデリ」と呼ばれることもあります。この買収監査では、M&Aに際して買収対象の財務内容等の正確性等を確認するため、買い手候補企業側によって調査を行います。最終契約の前に、売り手企業の財務、法務などの実態を買い手企業が自ら調査するものです。

 

買い手候補企業から派遣された公認会計士などが財務監査、税務監査を売り手企業に訪問して行います。中小・中堅企業の場合では、およそ2~3人の公認会計士などが3日間くらいかけて作業します。

 

具体的には決算書上の財産、たとえば売掛金の回収可能性や在庫の商品価値などが本当に価値のあるものなのか、また負債に関しては退職金やリース、今後発生する可能性のある債務、未払い残業代、違法建築の有無などの調査です。

 

さらに、契約書関係や商標、特許、販売権などを弁護士がチェックすることを「法務デューデリジェンス」といい、これらを実施する場合もあります。

優れた仲介者は早期に問題点を解決している

M&A後に、「思っていたものと違った」「思いもよらない問題が発見された」と言っても、時すでに遅し、です。後悔のないように買収監査は、しっかりと行わなければいけません。

 

以前は、この買収監査がとても重要であるといわれてきました。仮に、この段階で重大な問題やリスクが浮上してきた場合、契約内容の見直しや場合によっては契約の破談もありうるからです。買収監査(デューデリジェンス)は不可欠なものに違いありませんが、当社ではあえて買収監査には重きを置いていません。

 

なぜなら、当社が仲介する場合は売り手企業の案件を受託する際の案件化・企業評価の段階で、すでに事前監査を行い、問題点があれば早期に解決し、そのうえで適正な株価を算出して買い手企業に提案しているからです。もし、買収監査の時点で何らかの問題が見つかったとしても、買収価格の調整などで速やかに対応できる問題です。

 

早い段階からのきめ細かい調査と問題解決を実践していることは、良い仲介会社、良いM&Aコンサルタントの条件のひとつです。優れた仲介者に任せた場合、最終段階での買収監査で問題が見つかることはまずありません。初期段階で譲渡企業の経営者と信頼関係を築いているM&Aコンサルタントであれば、この段階で仲介者が知りえなかった重大な問題など、出てくるはずがないのです。

本連載は、2015年9月20日刊行の書籍『「業界再編時代」のM&A戦略』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「業界再編時代」のM&A戦略

「業界再編時代」のM&A戦略

渡部 恒郎

幻冬舎メディアコンサルティング

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