さまざまな角度から企業分析し、譲渡希望価格を算出
売り手企業の情報収集が完了すると「企業評価」に着手します。企業評価をするにあたっては、大きく3つのアプローチを行います。
1.会社情報の把握
(必要書類と社長からヒアリングした情報)
2.定量分析
(会社の資産の把握と時価換算というプラスの部分と、負債等のリスクのマイナス部分の把握)
3.会社の定性分析
2つめの「定量分析」は、自己資本の金額や純資産の金額(規模)、資産全体に占める自己資本の割合、短期的な支払い能力(安全性)、効率的な資産運用によって売り上げや利益を生んでいるか、借入をどの程度の期間で返済可能か、といった観点から分析されます。3つめの定性面より、定量面のほうが信用格付けのウエイトは大きく占めることになります。決算書の透明性や開示性の水準も分析されます。
会社の決算書は、企業の経営成績と財政状態を数値として適正に示したものです。それをどのようにして達成したかを知るための情報が、3の会社の「定性分析」です。
「定性分析」は、定量分析のよう数値化しにくい部分です。営業力や人材の資質、業界の成長など、会社の弱み・強みを以下の観点から評価します。
●経営者の資質(社長の経歴)
●幹部社員の資質(経歴と実績)
●譲渡を決断した理由
●ビジネスモデルと営業構造
●今後の設備投資計画
●特許の所有権と、その特性
●土壌汚染などの有無(工場の場合)
●労働組合の有無、上部団体の特質
●業界の動向と成長性
●業界の許認可等の動向
企業の価値を算出するには、さまざまな方法や計算式がありますが、当社の場合は、前述の情報をもとに、これまでの経験に基づいた独自の方法で評価していきます。そのうえで、売り手企業の社長と譲渡希望価格をすり合わせ、最終的な提案価格を決定します。
一見すると、我々M&Aコンサルタントが勝手に値付けをしているように思われるかもしれませんが、そうではありません。会社の中身を調査、分析して、さまざまな角度から適正な値段を算出する、というのがM&Aコンサルタントの仕事のひとつです。
情報漏洩を防ぐため「ノンネームシート」で提案する
さて、これらの情報材料がそろうと、次に「企業概要書」を作成します。企業概要書を提案する前に「ノンネームシート」つまり匿名での提案をします。初期段階では会社が特定されないように社名は伏せられます。通常、A4用紙1枚に、「業務内容」「地域」「社員数」「売上高」「譲渡理由」「特徴」などが記されます。買い手企業がまだ検討するかどうかわからない段階であるため、秘密保持の観点からこのような簡易な形式になっています。
特徴をノンネームシートに詳しく書きすぎれば譲渡企業が特定される情報漏洩リスクが高まります。一方、そのリスクを恐れるあまりぼかしすぎれば、買い手候補企業の関心の有無が適切にはかれないことになります。
日本M&Aセンターの場合、秘密保持に最大限注意を払うとともに、そのバランスにも留意しながら適切なノンネーム資料を作成しています。
次に、ノンネーム資料で興味を持った買い手企業が、さらに検討を進めるために提案されるのが「企業概要書」です。買い手候補企業がノンネームによる提案を受けて、対象の譲渡案件に興味を持った場合、社名を含めた情報が記載された情報に基づく検討に入っていきます。その際、ここで買い手企業とは必ず「秘密保持契約」を締結します。この締結が行われて初めて、買い手候補の企業に対して譲渡希望の会社名が明かされます。
「企業概要書」は、1社当たり数十ページにも及ぶ資料で、我々M&Aコンサルタントは、売り手企業の社長と二人三脚で時間をかけて作成していきます。前述の会社資料がすべてそろっていれば半月ほどでスムーズに完了する場合もありますが、通常、綿密な「企業概要書」作りには1カ月程度かかります。「企業概要書」の内容は次の項目によって構成されます。
●企業理念や創業の経緯
●貴社への提案の趣旨(得られるシナジー効果など)
●譲渡企業の会社概要(会社名、住所、資本金、社員数、売上高など)
●会社資産
●財務ハイライト
●財務内容3期比較(過年度のP/L、B/Sなど)
●主要製品、商品など
●譲渡理由
●社長のプロフィール
●株価など
【図表 日本M&Aセンターのノンネームシートフォーム】