由緒正しき家柄ではあるものの、財産のほとんどを失ってしまった一家。「先祖代々の家だけは守り抜かなくては」という切実な思いから、母親が遺言書をしたためます。ところがその結果、思わぬ事態を招くこととなりました。トラブルを引き起こすこととなった遺言書の中身とは? また、母親の願いを叶えるには、どうすればよかったのでしょうか。※本連載は、楠部亮太弁護士、中川紗希弁護士、平田久美子税理士ら監修の『失敗しない遺言とお墓のはなし』(税務研究会出版局)より、一部を抜粋・再編集したものです。登場するすべての事例・住所や氏名などはいずれも架空のものであり、実在の人物等とは関係ありません。

被相続人の書いた「残念な遺言書」…どこが残念?

<残念ポイント①>

×【財産すべて】

具体的にどのような財産があるか記載がありません。

⇒スマさんの死後、茂也さん(仮名)が遺産の調査に苦労する可能性があります。

 

具体的な記載がないと、金融機関によっては他の相続人の同意書の提出を求められることもあるので注意(自分の名義へ変更しようと思っても困難になります)。

 

<残念ポイント②>

×【長男茂也】

スマさんの2人の子どもを大切に思う気持ちとはかけ離れたものになっています。泉さん(仮名)の名前がなく、泉さんへの配慮がまったく感じられません。

「家を守るための遺言書」に娘激怒、自宅を失う結果に

スマさんの死後、遺言書を目にした長女の泉さんは怒り心頭。泉さんは、同じ子であるのにこれでは一円ももらえないことになっています。気持ちは収まらず遺留分侵害額請求(後述)に出ます。

 

家(不動産)のように、分割が難しい遺産を分ける方法として、「代償分割」(後述)があります。これは、家を取得した茂也さんが他の相続人に金銭などを与える方法です。

 

福永家は財産が2000万円。茂也さんは、泉さんに遺留分(全財産の4分の1)500万円を現金で渡せばよいのですが、茂也さんも父の死後、借金の返済等でお金が出ていったため、500万円を支払う余裕はありません。結局、代償分割をあきらめ、家を売り遺産を分けること(換価分割)になったのです。

 

 遺留分については、関連記事『父急逝で自宅売却危機…「前妻の子」の相続分を拒否するには』を参照。

 

●遺留分侵害額請求とは?

民法上、一定の相続人について、遺言があっても最低限受け取れる相続分が定められています。これを遺留分といいます。相続があったことを知った後で、この遺留分を侵害された金額を他の相続人に請求することを遺留分侵害額請求といいます。

 

●代償分割とは?

遺産の分割にあたり、相続人のうちの1人(または数人)が相続財産を現物(この場合は土地と家)で取得し、その現物を取得した人(茂也さん)がほかの相続人(泉さん)に金銭などを与える方法です。現物分割が困難な家などを分割するときに行われます。

 

イラスト:新岡麻美子
[図表3]代償分割 イラスト:新岡麻美子

税理士よりひとこと

家を売り遺産分割する「換価分割」の場合、所得税(譲渡所得)の申告が必要になります。また、専業主婦が相続人の場合、収入が増えて譲渡した翌年は配偶者控除の適用が受けられない(ゆえに夫の所得税が高くなってしまう)こともあるので注意が必要です(不明点は税理士に相談ください)。

 

 

楠部 亮太

楠部法律事務所 代表弁護士

 

中川 紗希

abri(アブリ)新宿総合法律事務所 代表、弁護士

 

平田 久美子

平田久美子税理士事務所 代表、税理士

 

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失敗しない遺言とお墓のはなし 人生100年時代の安心を!

失敗しない遺言とお墓のはなし 人生100年時代の安心を!

監修:楠部 亮太(弁護士)

監修:中川 紗希(弁護士)

監修:平田 久美子(税理士)

取材協力:畠中 雅子(ファイナンシャルプランナー)

税務研究会出版局

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