企業の「中身」と「価値」を判断できる第三者が必要
セミナーなどで企業のオーナー経営者によく話す、“たとえ話”があります。
1本のペットボトル飲料があります。売り手企業は、できるだけ高く売りたいと考えます。しかし売り手企業でさえも「ペットボトルの中身は何なのか?」「どのくらいの価値があるのか?」が正確に把握できていません。なんとなく値付けして、「いくらなら買ってくれますか?」などと相手に値段を尋ねている状態です。
一方、買い手企業も中身が何なのか把握していません。にもかかわらず、何もわからない状態のままに買おうとしたり、実際に買ってしまったりします。双方納得済みの売買ではありますが、いざ飲んでみると、自分の嗜好に合っていなかったり、まずくて飲めなかったりして、買い手はあとになって後悔します。
じつは、M&Aでも同じことがいえます。ペットボトルは数百円レベルなので、失敗してもあきらめはつきますが、企業のM&Aの場合は、あとから価格がまったく折り合わなかったり、期待したシナジー効果のない組み合わせだったりといったことが、しばしばあります。売り手・買い手双方の企業にとって、大きな痛手です。
そこで必要となるのが、第三者であるM&Aコンサルタントです。
ボトルの「中身」と「価値」を豊富な知識と経験をもとに判断できるからです。コンサルタントは、最初に売り手企業のオーナーの話を聞いて、中身の成分(会社の内容や状況)を調査します。その調査からわかった「会社の中身」と「本当の価値」について報告書にまとめて、会社が商品として実際に「いくらの金額で売れるのか」を報告・提案します。
M&Aを成功に導くために大切なのは、第一に「会社の正しい価値を算出する」ことです。その算出には、専門家の知識と経験が必要です。どんなに数字に強い経営者でも、自分の会社の価値を正当に判断することは大変難しい作業です。
売り手と買い手のマッチングは金額だけで成立しない
次に、会社の価値がわかり、売り手企業のオーナーに納得してもらったら、M&Aコンサルタントは、ラベルと値の付いたペットボトルを誰に買ってもらうかの検討をします。
たとえば、100円の価値のある水の入ったペットボトルを買い手希望の企業のオーナーの3人に打診したとしましょう。3人に絞り込む作業は、当社の場合、160人以上のM&Aコンサルタントが行います。まずは膨大なデータバンクの中から約300人に絞り込み、さらに検討を重ね、最終的に買い手は3人に絞り込みます。
我々が提示した金額に対し、三人三様の反応を示します。
買い手企業候補のAさんは、「それは高すぎる。80円なら買いましょう」と言いました。
Bさんは、「100円ならちょうどいい、買いましょう」と言いました。
Cさんに薦めてみると、「それなら、私は120円で買いますよ」と言いました。
果たして、3人のうち誰に買ってもらうのが一番良い選択なのでしょうか。
最良の相手探しと、売り手と買い手の最良のマッチングは、金額だけでは成立しないのは言うまでもありません。社風や理念、志が共通しているか、統合・合併後に最大のシナジー効果が得られるかなど、多角的に見ることが重要です。この最適な相手とのマッチングを導くのがM&Aコンサルタントの重要な仕事なのです。
ここまで、日本におけるM&Aの歴史と、M&Aの種類、そしてM&Aコンサルタントの必要性などについて解説しました。次回からは、実際の現場で行われているM&Aについて、売り手側の視点を中心に説明していきます。具体的なプロセスを実務手順に沿って、図解チャートを交えて紹介します。
事業承継型、経営戦略型、業界再編型など、今後さらにM&Aは急増していくことが予想されます。ご自身と会社の状況を見合わせながら、M&Aの各段階ですべきことが一目瞭然で把握できるようわかりやすく解説していきます。