最近の「多焦点眼内レンズ」は見え方も明瞭
眼内レンズは、合う焦点(距離)が一つか複数かで「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」の大きく2つに分けられます。さらに多焦点眼内レンズは、合う焦点(距離)の数や特性により、二焦点、三焦点、焦点深度拡張型などのタイプがあります。
かつて、多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズに比べて「はっきり具合が落ちる」と言われていました。より専門的にいうと「コントラスト感度」といって、明暗や濃淡を判別する能力が低いことを指します。
多焦点眼内レンズは、眼に入ってきた光を遠くと近くに分配し、それぞれに焦点を合わせます。光を一カ所の焦点に集めればよい単焦点眼内レンズに比べ、焦点一つあたりの光は弱くなるため、その分はっきり具合がやや落ちてしまう性質がありました。
昔から白内障手術をされてきた眼科医のなかには、今でも「多焦点眼内レンズははっきり見えない」と言う人がいるようです。しかし、今はレンズの改良が進み、コントラスト感度も単焦点眼内レンズとほとんど変わらない程度にまで高くなっており、ほとんどコントラスト感度を気にする必要はありません。
近くでも遠くでも、しっかりピントを合わせられる
一つのレンズで遠くも近くも見えることから、多焦点眼内レンズは遠近両用眼鏡が眼の中に入ったイメージ、と前述しましたが、これには少し補足が必要です。
遠近両用眼鏡の場合、遠くはレンズの上部、近くは下部に分かれているため、目線を上や下に向ける必要があります。しかし眼内レンズではそのような必要はありません。見たいものにまっすぐ目を向ければ、それが遠くであろうと近くであろうとピントが合ってきちんと見ることができます。
ただし、それまでと見え方が劇的に変わるために最初のうちはとまどう人もいるようです。多焦点眼内レンズを入れると、遠近両方の情報が同時に脳に入っていきます。術前に老眼で近くが見えにくかった人は、脳も見えないことに慣れてしまっているので、いざよく見えるようになったとき、情報処理が追い付かないこともあるのです。しかし、時間とともに「遠近ともきっちり見える」見え方に慣れていきます。
眼底疾患のある人と「多焦点眼内レンズ」の相性は?
眼底に異常があると、ピントがたとえしっかり網膜に合ったとしても、網膜内の神経細胞が正しく情報をとらえることができません。そのためレンズは焦点が合うつくりになっていても、像を正常に脳に伝えることができません。これは遠くよりも近くで顕著に出ます。
黄斑変性などの眼底疾患がある場合、多焦点眼内レンズを入れてもそれに見合う見え方の改善は見込めません。また、黄斑上膜の場合は多少の改善は見込めますが、視力が出にくく、多焦点眼内レンズの恩恵が十分に受けられないことがあります。ただ、それでも単焦点眼内レンズよりは見やすいだろうという判断で、多焦点眼内レンズを入れている人もいます。また、両眼に多焦点眼内レンズを入れれば、片方だけの場合よりも見え方は良くなります。
いずれにしても、眼底疾患がある場合で多焦点眼内レンズを希望される方は、見え方は眼底疾患がない人よりも多少劣ることは覚えておきましょう。
多焦点眼内レンズは、基本的にどんな人にも向いている
ここまで読んで「多焦点眼内レンズの方が便利そう。でも自分にそこまでの機能は必要だろうか」と迷ってしまった人もいるかもしれません。多焦点眼内レンズは、簡単に言えば「遠くも近くも見えやすい」ので、生活の中で遠くも近くも同じくらいよく見る、という人にはとても便利なレンズです。遠くだけしか見ない、もしくは近くしか見ないという人はほとんどいないため、誰にでも向くといえます。
例えばテニスなら、手にしたラケットや打つボールも、相手の姿も両方見えなければ良いプレーはできないでしょう。
車の運転をよくする人にも多焦点眼内レンズが向いています。手元のハンドル周りも、遠くの標識や信号も、両方良く見えなければ事故のもとにもなりかねません。ただ、どんなライフスタイルであれ、遠くも近くも見えることで暮らしやすさは格段に上がるので、多焦点眼内レンズは誰でも向いている、と言ってもいいでしょう。