手術の前準備…3日前から、抗菌薬の目薬をさす
手術日が決まったらその3日前から、「減菌療法」といって、抗菌薬の目薬を自宅でさします。これも感染症のリスクを減らすためです。
当日は、手術開始時刻の1時間半前までに来院いただき、瞳孔を開く目薬を何度もさします。術後は当然ですが、視界が悪くなりますので、車の運転はできません。そのため来院の際にも、自分で運転してこないようにあらかじめお伝えしています。感染防止のため、メイクはせずに来院いただきます。ただ、女性に多いまつ毛エクステ(人工のまつ毛を自分のまつ毛に接着させる増毛方法)は容易にはとれませんのでそのままで構いません。その分しっかり消毒を行います。
手術は局所麻酔で行います。眼科の手術台は歯科と同じように、座ったイスが倒れていってそのまま手術台になるものが多いです。あおむけになったあと、麻酔の点眼薬をさします。
手術中の「痛み」「不快感」の抑制は非常に重要
一般的に、麻酔は粘膜に良く浸透する性質があるため、眼の手術は術前の点眼麻酔だけでも十分に効くとされています。しかし当院ではさらに、眼を切開したあとも、より痛みが出ないよう眼内に麻酔を注入して進めていきます。これを前房内麻酔といいます。
痛みや不快感を極力抑えることは、患者さんが安心して手術を受けていただくために、とても重要というのが私の考えです。麻酔そのものは痛くもかゆくもなく、患者さんは麻酔をされていることにも気づきません。でも患者さんには分からない部分まで気を回し、きめ細かく配慮することも、手術の腕のうちだと思っています。眼の手術はただでさえ、怖いイメージを持たれがちです。仮に、「あそこの医者は腕がいいけど、手術はすごく痛いよ」などと言われたら、二の足を踏んでしまう人が大多数なのではないでしょうか。
痛みや恐怖心、不快感といったネガティブな感覚は、心理面だけでなく体調面にも悪影響をもたらします。
人は恐怖を抱いたり緊張したりすると、血圧が上がりどきどきしてきます。これが極端になると、眼圧が異常に高まり、術中に駆逐性出血と呼ばれる大出血を起こす恐れがあるのです。眼内の組織が外へ飛び出してしまうため、万が一起こってしまうと著しい視力低下をきたします。
手術を安全に行うためにも、痛みや不快感は少ないほど良いのです。患者さんは、手術台に上がる前から緊張している人がほとんどです。眼にまだ何もしていなくても、「痛いんじゃないか」「これから何をされるのか」とどきどきしてしまうものです。手術前の時点で、血圧が急に上がってしまう人もいるでしょう。そこで当院では、手術直前の緊張を和らげるため、リラックス麻酔(笑気麻酔)という、数分程度のごく短時間だけ効く吸引式の麻酔もかけます。患者さんにとっては楽な気分で手術に入れますし、リラックスできれば血圧も安定しやすくなるので一石二鳥です。特に緊張しやすいタイプの患者さんには有用です。