人間の心や頭の発達にとって、子ども時代は重要な意味を持ちます。近年、傷つきやすい若者、すぐキレる若者、頑張れない若者が散見されるのは、学力や知力とは関係ない、何か他の能力の不足が関係している――と、心理学博士の榎本博明氏は語ります。ここでは、その能力とは何か、どうしたら高められるのかを紹介します。本連載は、榎本博明著『伸びる子どもは〇〇がすごい』(日本経済新聞出版)から一部を抜粋・編集したものです。

「ストレスと社会的スキルに関する脆弱性モデル」

嫌なことがあればみんな同じようなストレス反応が出るというわけではなく、人によってストレス反応の出方が違う。その違いをもたらす要因のひとつが、感情反応か認知反応かといった反応様式である。

 

そして、もうひとつの要因が、ソーシャルサポートである。これは、支えてくれる人間関係のことである。ソーシャルサポートがあれば、それによってストレス反応が軽減される。

 

ストレスにやられる人が増えている理由のひとつとして、社会的スキルが未熟なため周囲の人たちからのサポートが得られない、それどころか周囲の人たちとの人間関係までもがストレッサーになってしまうということがあるのではないか。

 

実際、社会的スキルが不足するため自己開示できる相手ができない場合、そのためにストレスを感じやすく、抑うつ反応が出やすくなることが示されている。他者に対して情緒的サポートを与える社会的スキルが欠けている場合も、人間関係をうまく築けないためにストレスを感じやすく、抑うつ状態に陥りやすくなることが報告されている。社会的スキルが乏しいために人間関係のトラブルをうまく解決できない場合も、それによって抑うつ反応が出やすくなることが確認されている。

 

仕事の負荷がかかりすぎることがストレッサー(ストレスの元になっていることがら)になっている場合も、社会的スキルが高ければよいが、低い場合にうつなどのストレス反応が出やすいということも確かめられている。

 

今の中高年世代と違い、集団遊びを経験せずに育つようになって、社会的スキルが磨かれないままに大きくなってきた若い世代が増えている。年上の人が苦手とか、逆に年下が苦手など、年齢の異なる相手とのかかわり方がわからないという声を聞くことも多くなった。また、とくに仲のよい友だちとだけ遊んできたため、親しい友だちならよいが、気が合うわけでもなく、何を考えているのかよくわからない職場の人たちとかかわるのが苦手だという声もよく耳にする。

 

社会的スキルが不足しているため、うまく間が取れないのである。そのような場合、相手のちょっとした言葉や態度に、「拒否されている」と感じたり、「自分なんかと一緒にいたってつまらないんだろう」と思ったりしがちである。それで人間関係に気をつかいすぎて、疲れてしまう。これでは人間関係がサポートになるどころか、かえってストレッサーになってしまう。

 

ストレスと社会的スキルに関する脆弱性モデルというのがある。これは、ストレッサーとなり得るネガティブライフイベント、つまり嫌な出来事を経験しても、社会的スキルが高ければとくに問題は生じないけれども、社会的スキルが低いとストレス反応が出たり、人間関係を悪化させたりしやすいというものである。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

ここから言えるのは、ストレスに強くなり、ストレス症状が出るのを防ぐためには、社会的スキルを身につけることでストレッサーへの抵抗力を高めることが大切だということである。そのように重要な社会的スキルだが、幼児期以来の遊びを通して徐々に身につけていくと考えられている。

次ページ怒りを爆発させ、周囲の人たちからは呆れられ…
伸びる子どもは〇〇がすごい

伸びる子どもは〇〇がすごい

榎本 博明

日本経済新聞出版社

我慢することができない、すぐ感情的になる、優先順位が決められない、自己主張だけは強い…。今の新人に抱く違和感。そのルーツは子ども時代の過ごし方にあった。いま注目される「非認知能力」を取り上げ、想像力の豊かな心の…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録