M&Aによる会社(事業)売却は、中小企業の「存続・発展」と「生産性向上」を実現する有力な武器です。本連載は、起業支援NPO、金融コンサルティング・M&A・不動産・投資教育事業会社などを多数運営する、佐々木敦也氏の最新刊『中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A』(ジャムハウス)の中から一部を抜粋し、中小ベンチャー企業経営者のための「会社(事業)の売り方」をご紹介します。

創業者利益を得て新しいビジネスにチャレンジ

今回は、経営者が会社を売りたいと考える「5つ」の理由について見ていきます。

 

①創業者利潤獲得&新しいビジネスを立ち上げたい!

起業家には二つのタイプがある。一つは会社立ち上げ後、とことん大きくすることにやりがいを感じ、オーナー経営者として君臨し続けるタイプ、もう一つは、会社立ち上げは好きでやりがいを感じるものの、一定の成長をした後は興味を失い、一度売却してまた新しい会社を興したい、あるいは、そのままアーリーリタイアしたい、というタイプである。

 

後者の場合、アメリカでは創業者利潤の獲得は、IPOよりM&Aによる売却が多く利用されており、創業当初から売却戦略を立てるケースが盛んだ。アメリカの起業家の多くは、いったん起業したビジネスを一生の仕事とは考えておらず、起業し、自分の会社が高収益を上げるようになったら、その会社を売却して、創業者利益を手にし、次のもっと可能性の大きなビジネスにチャレンジしようとする。これがいわゆる「※シリアル・アントレプレナー(連続起業家)」と呼ばれる人たちだ。

 

この場合、高収益で儲かっているピークに会社を売るから、買収希望会社がたくさんあり、すぐに売却できる。アメリカのこのようなイグジットのエコシステムは、高いレベルの教育・研究、技術開発、そして次の起業家育成の糧になっている。日本においても今後は、アメリカのように最初から売却を目指して創業するタイプが増えてくるだろう。

 

※シリアル・アントレプレナー
シリアル(serial)は「連続的な」の意、アントレプレナー(起業家)の中でも、特に連続して何度も新しい事業を立ち上げる起業家を指す。シリアル・アントレプレナーは、ベンチャー企業を立ち上げた後、事業を軌道に乗せることに成功すると、その事業から半ばあるいは完全に手を引き、また別のベンチャー企業の立ち上げに取り組む。 あるいは、事業が不成功に終わり倒産することになった場合も、失敗を糧としてやはり次の事業をスタートする。シリコンバレーにおけるエグジットのエコシステムに貢献している。

 

②後継者が不在(事業承継)だ!

特にオーナー企業の売りたい動機の中心は後継者の不在だ。調査会社によると、中小企業の6割を超える企業で後継者問題を抱えているとの結果もある。世代交代時期を迎えても、後継者のいない会社がたくさんあるのだ。そして子供がいても子供の適性や将来を考えると、親が作った会社は親の代で、別のしっかりした会社に売却したい、と考えるケースが多くなっている。この問題を解決していくことは我が国の雇用問題もからみ、重要な課題だ。適切なM&Aでの活用が大いに期待される。

会社のさらなる発展を目指すために・・・

③会社(事業)の成長を願う!

オーナー企業社長が今後の自社の発展や社員の将来を考えて、自分が経営を降りてもしっかりした会社に任せよう、と決断するケースである。この場合、後継者・業績など問題を抱えていることが理由ではないので、「しっかりした会社」をじっくり選びたいというスタンスになる。大手企業や上場企業、あるいは勢いある新興・ベンチャー企業に売却し、その傘下に入ることで、その企業の資本力、販売網、人材等を活用し、自社のみでの成長の限界を破り、さらに大きな企業になるように、会社・社員がチャレンジしていくことになる。

 

④事業の選択と集中が必要だ!

不採算事業を売却して、成長事業に集中して経営資源を投入する戦略である。経営体力に限りがある中で、事業ポートフォリオの適切な組換えや集中は、中小ベンチャー企業にとって生存にかかわる問題だ。そのためには事業ごとに売り上げ・利益・成長性等で総合評価する基準を持ち、トップは果断な意思決定が求められる。今後は非上場企業においても資本効率を考え、ROE(株主資本利益率)戦略を考慮する経営が求められるだろう。

 

⑤業績の悪化・先行き不安を回避したい!

自分の会社の業績が非常に悪化してきたため、「出来れば倒産する前に、どこかの企業の傘下に入りたい、他社の資金で救済してほしい」と考えM&Aアドバイザーに相談にくるケースは多い。しかし、こうした会社の場合は、たいてい相当の負債を抱えているため、なかなか買う会社は見つからない。

 

負債を補って余りあるプラス(会社の強み、優良な顧客、特殊な技術・特許、許可、店舗の立地等)がなければ、こういう会社は正直売れないのだ。資金繰りの悪化、倒産寸前になっては遅すぎる。そうなる前に会社を売る決断をしなければ病気の進行と同じく手遅れである。このような事態になった企業のM&Aは、再生支援のスポンサーを探すことになる。

 

しかし、再生案件に投資する会社やファンドは、当然再建メドを厳しくみてくるため、現実は厳しいものとみた方が良い。なお、親会社の経営不振のため、売却される子会社等が買い手先に不満を持つ場合、経営陣らが自らの資金を投入し、MBO(経営陣による買収)するケースもある。

本連載は、2015年8月31日刊行の書籍『中小ベンチャー企業経営者のための“超”M&A』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A

中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A

佐々木 敦也

ジャムハウス

日本の中小ベンチャー企業がM&Aをどのように活用できるか、またすべきか、という視点に重きをおいてまとめた入門書。 元M&Aアドバイザーが客観的・中立的な視点で、大企業でない中小ベンチャー企業のM&A市場を概観し、M&Aの…

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