今回は、売り手にとって「そのM&Aはどんなインセンティブがあるのか」をテーマに見ていきましょう。※本連載は、起業支援NPO、金融コンサルティング・M&A・不動産・投資教育事業会社などを多数運営する、佐々木敦也氏の最新刊『中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A』(ジャムハウス)の中から一部を抜粋し、中小ベンチャー企業経営者のための「会社(事業)の売り方」をご紹介します。

売り手側の意思決定や行動の影響要因を考える

買い手のインセンティブで、「人は何の報酬で評価され満足するか」という意思決定や行動に影響を与えている要因は売り手にも当然ある。M&Aでは、売り手の売却理由と合わせて何がインセンティブとなっているのかを買い手側も理解して交渉することが大事である。

 

(1)創業者利潤獲得の場合

まずはなるべく多くの利潤をとりたいので、売却価格を高くしたい、ということになる。業績が良いときのM&Aなので売り手優位に価格交渉が進められる。また一代で事業を育てた場合、自分の労力を世間的に認められたい、いい企業評価がほしいとの気持ちも強い。

 

(2)事業承継の場合

後継者がいないという状況では、高くは売りたいがそれよりも、社員の雇用、取引先継続などが優先される。この意味では、社会的評価を得たいという気持ちが強い。

売却を焦ると、やはり成約は難しくなる!?

(3)会社(事業)の成長の場合

オーナー社長が会社や社員の将来のために、売却するのであるから、まずは買い手から正当な評価をいただきたい、というところである。そして社員の待遇・モチベーションアップとなるのか、取引先も歓迎するのか、などというところも重視する。

 

(4)事業の選択と集中の場合

不採算事業を売却して、成長事業に集中するために、まずは少しでも高く売りたいと考える。しかし、事業ポートフォリオの入れ替えであるから、あまり時間もかけられず早期に成約したいとの気持ちは強い。不採算部門の社員の処遇についても社会的非難は受けずに対応したいと考える。

 

(5)業績の悪化・先行き不安の場合

特に資金繰り問題に火が付いた場合、少しでも早く成約して資金投入してもらわなければ、企業として生存できるかどうかの瀬戸際となる。こうなるともはや多少の悪い条件でも売れるなら良いという気持ちになり、世間体や社員の処遇もあまり気にする余裕はないという状態になる。

 

因みにM&Aのプロセスでは、売却に焦りがみられると、足元をみられるばかりでなく、買い手からは何か悪すぎる事情があるのではと勘繰られ、成約はかえって難しくなる。このケースでのオーナー社長の心中は相当苦しい。

 

毎晩買い手の状況をしつこく聞かれるなど、M&Aアドバイザーも相当なストレスを受ける。買い手を探してからクロージングに至るまで1年近くかかることもあり、追い込まれる前にある程度の余裕・時間を残しての対応を考えておかねばならないのである。

本連載は、2015年8月31日刊行の書籍『中小ベンチャー企業経営者のための“超”M&A』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A

中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A

佐々木 敦也

ジャムハウス

日本の中小ベンチャー企業がM&Aをどのように活用できるか、またすべきか、という視点に重きをおいてまとめた入門書。 元M&Aアドバイザーが客観的・中立的な視点で、大企業でない中小ベンチャー企業のM&A市場を概観し、M&Aの…

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