一般に高収入のイメージが強い「医師」ですが、実際のところ裕福な暮らしをしている人は少ないうえに、ベテランになるほど経済的苦境が深まります。このまま勤務医を続けるべきか、開業するべきか…ほとんどの医師が悩む問題です。専門性を活かしつつ、経済的な苦境を回避・脱却する「いいとこどり」な方法はないのでしょうか? 資産形成に成功した現役の勤務医が実体験に基づいて解説。※本連載は、自由気ままな整形外科医氏の著書『医師の経済的自由 豊かな人生と理想の医療を両立できる第3のキャリアパス』(中外医学社)より一部を抜粋・再編集したものです。

ほぼ間違いなく「経済的に苦しくなる」恐ろしい事実

「医師って、こんなに割に合わない仕事だったんだ」

 

こんな思いに駆られている方は、多いのではないでしょうか。世間一般から見れば高給の部類に入るし、医師というネームバリューもまだまだ捨てたものではありません。しかし、実際に私たちの置かれている状況は、ハードのひと言です。卒後間もないころは、医師として成長している実感があり、激務であっても毎日が充実していることでしょう。

 

しかし卒後10年近く経って医師として脂が乗り始めるころには、何かが違うことに気付くようになります。医師としてやりがいのある仕事をこなしているものの、経済的には余裕のない自分がいるのです。

 

世間で思われているほど裕福な暮らしをしているわけではないのに、なぜか給料日が待ち遠しい生活を送っている自分に気付いてしまう…。そんな経験のある方は、決して少なくないと思います。

 

しかも、年齢を重ねるごとに状況は悪化していきます。子供の教育費が重くのしかかることで、経済的状況の悪化に気付く方が多いです。しかも状況の悪化に対応する手段は限られています。医師と言えども年を追うごとに人生の選択肢が狭まっていくからです。

 

このことに私が気付いたのは、卒後6年目のことです。私は、某公立医科大学を卒業後に整形外科医になりました。学生時代にテニス部だった私は、膝や腰を痛めて整形外科によくお世話になりました。最も身近な診療科であったこともあり、私は整形外科医を志すようになりました。両親は医師ではなかったので、自分の将来に対する具体的な展望を持つことはありませんでした。

 

そして、大学卒業後に母校の整形外科医局に入局しました。当初の5年ほどはとてもハードでしたが、医師という仕事に対して何の疑問も持たず、とても充実した毎日を過ごしていました。同期の仲間たちも似たような感覚だったと思います。このため、医師になって本当によかった!という気持ちは、医師全員に共通しているものだと信じて疑いませんでした。

 

しかし、上司の先生からは、私たち若手医師と少し異なる雰囲気を感じました。責任や仕事内容に比べて給与が少ないとぼやくのです。当初は、その先生だけの問題だと思っていました。ところが、異動で上司が変わるたびに、どの先生も同じような愚痴をこぼします。なぜ、医師は高給なのに、不満を口にするのだろう? 当時、独身だった私には、結婚して家庭を持っている上司の苦悩を理解できませんでした。

 

しかし、当時の上司の年齢に近付いてくると、思わず愚痴をこぼしたくなる気持ちを理解できるようになりました。何の対策も打たなければ年齢を重ねるごとに、ほぼ間違いなく経済的苦境に陥ってしまいます。このことは、若い時には実感を持って感じることはできません。それだけに、このことは恐ろしい事実なのです。

勤務医のまま「開業医並みの収入」を得る第3の選択肢

卒後7年目の私は、このまま勤務医を続けるのか、それとも思い切って開業するのかを決断するべき時期に差し掛かっていました。経済的には、明らかに開業する方が有利です。開業すれば、上司の先生方が陥っている経済的苦境とは無縁の生活が送れそうな気がしました。

 

しかし、開業すると苦労して習得した専門的な医療技術を生かすことが難しくなります。親がクリニックや病院を経営している方以外は、どちらを選択するのかを誰もが悩むのではないでしょうか。例に漏れず私もかなり悩みました。その時に、両者のメリットを得ることができれば、問題が解決するのではないかと考えるようになりました。

 

勤務医を続けることで、医師としての能力を最大限発揮できる環境に身を置きます。その上で、経済的には開業医並みの収入を得る仕組みを構築するのです。当時の私は世間知らずでした。このため、既存の考え方に縛られることなく自由な発想をすることができたのです。

 

今にして思えば、荒唐無稽なアイデアです。しかし、私は卒後8年目に、勤務医・開業医・大学教員・研究者といった、普通の医師が考えるキャリアパスから逸脱する決意を固めました。そして、試行錯誤を重ねながらも、その後の10年間で経済的自由を獲得することに成功しました。生活するために医師を続ける必要がなくなったのは、卒後18年目のことです。無知だったからこそ、最初の一歩を踏み出すことができました。幸いにも、そこには経済的自由に至る道が存在したのです。

 

「経済的に自由な状況」に到達するまでには、数多くの試練や貴重な出会いがありました。それらの試練や出会いは、すべて自分を成長させる糧となっています。一人前の医師になる過程では、論理的思考能力や発想力を習得する必要があります。そして、これらの能力は、実社会を生きていく上でも大きな武器となることに気付きました。

 

医師は世間知らずだと言われることが多いです。実際に、私自身も一般常識が不足気味なことを自覚しています。しかし、このことは必ずしも恥ずべきことではありません。人間の能力には限りがあります。すべての分野で傑出した存在になるという考え方自体が間違っていると思います。多くの医師は、論理的に考える能力に長けています。論理的思考能力は、臨床や研究で培われたものです。そして、この能力こそが、実社会で経済的に成功するためには、必要不可欠な能力なのです。

 

巷にはたくさんの資産形成指南本があふれています。しかし、残念ながら医師の目線で実体験に基づいて論じている書籍は皆無です。本書『医師の経済的自由 豊かな人生と理想の医療を両立できる第3のキャリアパス』は、一風変わったキャリアパスを選択した臨床医が執筆しています。いかにして経済的に自由な状況に到達して、自分の理想とするスタンスで医師を続けているのか? その珍しい一例として、少しでも若い医師の参考になればと思って上梓しました。

 

一般的にはアカデミアを追求するのであれば大学教員を、臨床で腕をふるうには勤務医を、経済的な成功を志すのであれば開業医を選択する方が多いです。しかし、開業することだけが経済的成功の手段ではありません。大学教員や勤務医を続けながらも、経済的に自由な状況に到達することは十分に可能です。このことを知っていただくだけでも、本連載の価値があります。ひとりでも多くの医師が、経済的自由を実現できれば理想的です。そして、経済的自由を実現した結果として、豊かな人生と理想とする医療を実践していただければ、これに勝る幸いはありません。それでは、あなたの医師人生に経済的自由が訪れるためのお話を始めましょう。

 

次ページそもそも「経済的に自由な医師」とは何か
医師の経済的自由 豊かな人生と理想の医療を両立できる第3のキャリアパス

医師の経済的自由 豊かな人生と理想の医療を両立できる第3のキャリアパス

自由気ままな整形外科医

中外医学社

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