人間の心や頭の発達にとって、子ども時代は重要な意味を持ちます。近年、傷つきやすい若者、すぐキレる若者、頑張れない若者が散見されるのは、学力や知力とは関係ない、何か他の能力の不足が関係している――と、心理学博士の榎本博明氏は語ります。ここでは、その能力とは何か、どうしたら高められるのかを紹介します。本連載は、榎本博明著『伸びる子どもは〇〇がすごい』(日本経済新聞出版)から一部を抜粋・編集したものです。

勉強、就活、仕事…あらゆる成功も「EQ」しだい

何ごとに関しても粘り強く取り組む姿勢が成功につながるというのは、経験則としてだれもが知っている。学業成績を左右する要因が粘り強く頑張れるかどうかであることは、すでに指摘した。粘り強く取り組むことができるかどうかも、自分の心の状態をコントロールする力という意味で、まさにEQに相当する能力なのである。

 

心理学的な研究でも、小学生の学力には、EQ、とくに自分の感情をうまくコントロールできるかどうかが関係していることが確認されている。「中一の壁」などと言われるように、環境の大きな変化を経験する中学1年生にとっては、環境の変化に打ち克って自分の心の状態を安定させることが求められるが、自分の感情をうまくコントロールできるかどうかが学力に関係することがわかっている。

 

これは容易に想像できることだが、EQが低い場合は、困難に直面するとすぐにヤケを起こしたり、諦めたりしがちである。一方、EQが高ければ、ネガティブな感情をうまくコントロールして、自分を鼓舞しながら、粘り強く困難に立ち向かうことができる。ものごとに粘り強く取り組めるかどうかもEQしだいというわけだ。

 

モチベーションには理屈よりも気持ち面が大きいことを考えると、感情コントロール力がいかに重要性かがわかるはずである。たとえば、試験前に勉強しなければいけないことは頭でわかっていても、どうもやる気が湧かない。そんな経験はだれにもあるだろう。そんなときに、自分の気持ちを鼓舞してモチベーションを高めることができるかどうか。それによって試験で成功するかどうかが決まってくるわけだが、そこにEQが関係してくる。

 

EQが高いほど就職活動で成功しやすいという傾向もみられる。その理由として、自分の感情を適切にコントロールでき、人の気持ちや立場に対する共感性が高く、自分の思いをうまく伝えることができることが、面接官の高評価につながるということがあるだろう。

 

だが、それだけではない。就活では思うような結果が出ずに苦しい思いをするものだが、そこで落ち込んだりヤケになったりしていたら、就活で成果を出すのは難しい。実際、いくつか落とされることでひどく落ち込み、モチベーションを維持できず、就活を投げ出し留年を決め込むものや、アルバイターでいいと開き直る学生もいる。落とされればだれだって落ち込むが、そこからすぐに立ち直ることができないと先に進めない。それにもEQが関係する。けっして諦めたりせずに、前向きに頑張り続けられるのも、EQの高さによるところが大きい。

 

就職してからも、EQの高さは仕事上の業績評価や給料の高さなどと関係していることが報告されている。いくら頑張ってもなかなか成果が出ないというのもよくあることだが、それでも諦めずに頑張り続けなければならない。自分なりに成果を出せても、ライバルがそれ以上の成果を出した場合など、評価されずに落ち込みがちだが、それでも頑張り続けるしかない。上司との相性が悪く努力や成果を正当に評価してもらえない場合も、腐らずに前向きの気持ちで頑張り続けるしかない。それができるかどうかもEQしだいと言える。

 

このように、忍耐力や衝動コントロール力など自己コントロール力があるほど、勉強にも仕事にも粘り強く取り組めるため、潜在能力を十分に活かすことができるはずである。また、そうした自己コントロール力があるほど、人とのトラブルも少なく、公私にわたる人間関係を良好に保つことができるだろう。それは情緒安定をもたらし、モチベーションを高める効果をもつと同時に、周囲の人たちの好意的な対応も引き出すと考えられる。

 

ここで改めて強調したいのは、このようなEQは、まさに日本の子育てや教育において伝統的に重視されてきたものだということである。日本の教育界では、何かにつけて欧米式を導入したがる傾向があるが、すでに述べたようにOECDによる学力調査でも日本人は非常に学力が高いことが示されているし、日本人の勤勉さや仕事の質の高さは世界的に定評がある。

 

さらに言えば、これまで知的能力ばかりを重視してきたアメリカでは、いくらIQが高くても、忍耐力や衝動コントロール力といった自己コントロール力が高くなければ社会的に成功できないと言われ始めている。

 

日本では、忍耐力や衝動コントロール力など自己コントロール力を重視する子育てや教育が伝統的に行われてきたのに、それを軽視するばかりか、自己主張の教育などといって、そこから脱しようとする動きさえある。

 

最近の国際比較調査のデータをみると、日本の生徒や学生の学力低下や学習時間の少なさが目立つ。また、叱られたり注意したりすると落ち込んだり、逆ギレしたり、辞めてしまったりする新入社員が増えており、若者のストレス耐性の低さが話題となっている。そうしたことを考えると、自己コントロール力を鍛える子育てや教育を再評価すべきだろう。

 

学校生活を順調に乗り切り、自分らしい進路を切り開いていってほしい、大人になってからの職業生活や私的な人間関係もうまくやっていける人間に育ってほしいと思うなら、日本の伝統的な子育ての良さを再認識する必要がありそうだ。

 

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榎本 博明

MP人間科学研究所 代表

 

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