整理しておきましょう。年間総労働時間が1740時間と仮定した場合、社員の時間単価は2873円となり、その3倍は8619円です。果たしてこの8619円という水準をどのように考えたらよいでしょうか。手が届かないような高い水準でしょうか。
ここで、米国の労働生産性が日本の1.6倍であることを思い起こさなければなりません。仮定した収支トントンの5746円を1.6倍しますと、9193円になるのです。
日本の労働生産性を米国並みに引き上げることで、松下幸之助氏の給料3倍説を超えるのです。米国並みとはいかないまでも、収支トントンの時間単価5746円を一気に8619円に引き上げるのは難しいことです。かけ声や情熱だけでは達成できません。
5746円から8619円への引き上げは人を資産として育て上げることによってのみ可能となります。5746円から8619円に底上げされた分の差額である2873円は年間総労働時間1740時間の中で生み出していかなければなりません。
時間単価5746円で収支トントンの企業が、給与の3倍の力を社員につけさせるためには、不足分2873円をもたらす教育効果を出さなければなりません。しかしそのために使える時間は限られています。年間総労働時間である1740時間を有効活用しなければさらなる500万円を獲得することはできないのです。
人を資産として育成し、その価値を高めるための時間は、日常の業務に就きながら行われる教育訓練のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)、業務命令に基づき、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練(研修)のOFF−JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)、自己啓発、会議の4つのカテゴリーから捻出しなければなりません。
それは年間総労働時間1740時間の一部なのです。仕事が忙しくなれば、人を育てる時間が削られるのが現実です。
しかし、人材育成を先送りしてきた結果が、労働生産性においてOECD諸国の下位レベル、先進7カ国の中では最下位という結果を招いてしまいました。仕事の繁忙・閑散にかかわらず人材育成は最優先課題にしなければならないのです。
※本記事は連載『確実に利益を上げる会社は人を資産とみなす』を再構成したものです。
松久久也
株式会社プレジデントワン代表取締役
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