半数以上が「生活困難」…高齢者世帯の生活保護が増加
憲法は、国民が「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」、「生存権」を保障しています。そのために、国に対し、社会福祉等の向上に努める義務を課しています。その法律が、生活保護法です。セーフティ・ネットとしての制度を知っておきましょう。
【生活保護法】第1条(この法律の目的)
この法律は、憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
生活保護受給世帯のうち、65歳以上の高齢者世帯が半数以上に上ります。生活が「苦しい」および「やや苦しい」という回答は高齢者世帯の55.7%になっており、貧困世帯の割合が増加しています(厚生労働省「2019年国民生活基礎調査」)。
実際に、受給している年金額だけでは不足します。国民年金受給者の平均受給額は月額約5万5千円、厚生年金受給者の平均受給額は約14万4千円です(厚生労働省年金局「平成30年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」)。
ところで、高齢者が1ヵ月生活するのに1人当たり13万円程度が必要ですから、国民年金のみの受給者においては1ヵ月約7万円以上の赤字となります。ましてや、病気等のため国民年金料を支払っておらず、受給資格のない場合は大変です。さらに、住宅ローンが残っていれば、当然に生活は困窮することになります。収入だけでは生活が維持できないとなれば、生活保護も選択肢となるでしょう。
生活保護の受給要件は5つ
生活保護は世帯単位です。世帯員全員が資産、能力その他あらゆるものを活用し、また、扶養義務者がいれば、その扶養義務が果たされることが優先されます。生活保護は、最終的手段といえます。
①年金を含めた世帯収入が基準額(厚生労働大臣が定める基準額で、地域ごとの最低限度の生活に必要な基準額)より低いこと
②資産はすべて生活費に充てること(資産活用):
生活に利用していない預貯金は引き出して生活費に。不動産は売却して生活費に充てる。自動車も障害のための通院などが必要と認められる場合を除いて売却すること
※今後、制度の改正により一定程度の財産の保有は認められる方向とみられる。
③能力に応じた仕事をしていること(能力活用):
シルバー人材センターなどを活用し、能力に応じて収入を得ること
④扶養義務者からの援助がないこと(扶養義務者からの扶養の活用):
配偶者、子ども、親、きょうだいなど、扶養義務者から援助を受けることができる場合には、原則としてそれを優先
⑤その他の制度をすべて利用すること:
遺族年金など他の年金が受けられる場合にはそれを優先
生活保護で受けられる5つの扶助
生活保護が認められた場合、以下のような扶助が支給されます。
①生活扶助…日常生活に必要な費用で、食費、光熱費、被服費など
②住宅扶助…アパートなどの家賃や転居に伴う敷金・契約更新料など
③医療扶助・介護扶助…医療および介護サービスは無料
④生業扶助…就労するのに必要な技能の習得にかかる費用は、定められた範囲内で実費を支給
⑤葬祭扶助…葬祭にかかる費用は、定められた範囲内で実費を支給
【憲法】第25条(生存権)
第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障および公衆衛生の向上および増進に努めなければならない。
【民法】 第877条(扶養義務者)
第1項 直系血族およびきょうだいは、互いに扶養をする義務がある。
第2項 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、3親等内の親族間においても、扶養の義務を負わせることができる。