「思わぬ相続人」の出現で生活の危機…鈴木家の事例
【事例】父の急逝で相続発生…会ったこともない「異母兄弟」の相続分に衝撃
鈴木鉄平は鈴木幸子と鈴木武の間に生まれた一人息子である(すべて仮名)。父鈴木武は幸子と結婚する前に別の女性と結婚していて、圭太(仮名)という息子がいることを、5年前に母から知らされた。しかし、鉄平がその異母兄弟と連絡を取ることもないまま月日は流れ、父武は病に侵されてしまった。
父の前妻の子のことは忘れていたが、父の具合が悪くなり、相続を考えたところで、新たな心配ごとが起きた。鉄平の母と結婚してから父が一度も会っていない前妻の子にも、鉄平と同じ額を相続する権利があるというのだ。
法定相続分で計算すると、前妻の子の取り分は相続財産の4分の1、金額にして約1000万円【図表7】。等分に分けるとすると、家を売ってお金を作らなくてはならなくなる。親子の交流が20年以上も前に途絶えていたとしても、取り分は同じなのかと、幸子も鉄平もショックを受けた。
離婚しても親子の縁は切れない…「前妻の子」の相続権
前妻は、離婚した時点で法定相続人ではなくなるので相続分はゼロです。
一方、どんなに疎遠でも、親が離婚しようとも、故人である武さんの子、圭太さんには財産を相続する権利があります。子はずっと子、親子の縁が切れるわけではありません。遺産分割協議書には法定相続人である、①圭太さんと②後妻の幸子さん、③幸子さんの子・鉄平さん、三人の実印による押印が必要になります。
前妻に子どもがいる場合、遺産分割協議が難航することはよくあります。圭太さんが法定相続分どおり、財産の4分の1をよこせと主張したら、武さんの預金は500万円しかないので、1000万円を渡すには鉄平さんか幸子さんが現金で500万円を用意するか、家を売ってお金を作るしかありません。このような事態を避けるには、【図表8、9】ような遺言書が有効です。
遺族の明暗を分ける「遺言書の有無」
法定相続人には最低限、財産をもらう権利があります。遺留分侵害額請求とは、その権利を主張し、ほかの相続人に金銭の支払いを要求することです。
前妻の子圭太さんの遺留分は500万円(相続財産の8分の1)です(計算方法は次ページ【図表11】参照)。
万が一、遺留分侵害額請求を圭太さんからされても、預金が500万円あるので支払えます。遺言書を書いてあれば、幸子さんは家を売らずにすみます。
今回は、前妻に子どもがいるというケースを扱いました。法定相続人というと、普段顔を合わせている配偶者や子どもといった、「身近な人」を思い浮かべる人も多いと思います。ところが実際は、このケースのように疎遠であったり、自分は一度も会ったことがなかったりする人が法定相続人になることもあります。
こういった「思わぬ相続人」の出現は、今回紹介したケースのように、残した家族の生活を脅かすものにもなりかねません。残した家族を守るためにも遺言書は必要だといえます。