介護してた母死去「この家どうする…?」8人兄弟、長男の一手

本記事は、書籍『ワケあり不動産の相続対策』から抜粋したものです。税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

不動産はもともと分割しにくい財産だが…

そもそも、なぜ不動産のような分割しにくいものを無理やり分割しなければならないのでしょうか。

 

「相続人が複数人いればそうするより仕方がない」――今の時代しか知らない人は、何の疑いもなくそうおっしゃると思います。しかし、実はこのような考え方になったのは均分相続という相続形態になってからなのです。

 

均分相続というのは、相続人が相続財産を均等にして分割する相続制度で、相続人の平等の権利を基礎として考えられています。

 

日本が均分相続制度になったのは、戦後間もなくの1948年のことです。アメリカ軍を主体とした連合国軍の指示や影響のもと、日本の法律が次々に改正されていきました。その中で、それまでの相続制度である家督相続制度が廃止となり、均分相続制度になったのです。

 

家督相続制度とは、戸籍上の家の長として、これまで戸主が持っていた地位と財産を、次に戸主となる者、つまり主に長男が単独ですべてを相続するというものです。

 

どれだけの人数の兄弟がいたとしても、基本的には長男が家督相続人となり、家の財産をすべて受け継ぎます。その代わり、すべてを受け継いだ家督相続人は、その財産と一族を守っていく大きな責任を伴うものとなっていました。

 

移り行く人々の意識や社会情勢からすれば、こういった独占的な相続である家督相続制度がよくないという判断は理解できます。しかし、均分相続制度に変更したことで、それまで以上に問題が多発するようになったとも言われているのです。

「平等意識」によって鮮明化する「相続の不公平感」

複数の相続人で平等に分けるという精神のもとでは、平等でない相続分を提案された人は不平不満を持ち、平等に相続する権利があることを主張するようになります。

 

例えば、相続財産が自宅しかない親の相続が起こったとします。子は長男と長女の2人です。同居していた長男は住むところが必要ですから、親の死後もその自宅をそのまま相続したいと思っています。しかし、長女はそれでは何も相続できないので平等ではない、と自分の権利を主張するようになります。

 

均分相続制度では、このような長女の考え方は何も間違ってはいません。結果として、思い入れのある実家を売却し、現金化して分割するといった事態が起こりうるのです。

 

平等に相続する権利を主張するかしないかは、相続人の人間性といった不確定要素の強いものに委ねられることになります。相続人が5人いれば、5人のうち誰か1人くらいは権利を主張してもおかしくありません。

 

相続人の誰もが経済的に安定していることなど稀でしょうから、少しでも財産を多くもらって生活を楽にさせたいと思う人も出てきます。権利を主張する人がいれば、その人のために分割方法を考えなければいけません。不動産であれば、場合によっては価値がなくなるような分割の仕方を選択することになります。

 

これから相続を迎える人は、均分相続制度というものによって引き起こされる問題や争いがあることを知っておく必要があります。特に不動産相続と均分相続制度は、相性がかなり悪いように思います。しかしその事情を知っておけば、事前の対策を講じる必要性も理解できますので、実際に行動に移しやすくなるはずです。

いざこざが起きてしまったら?事前に防ぐ方法は…

権利の主張によるいざこざが起きてしまったら、なかなか解決するのは難しくなるでしょう。ただし、初めからこういった権利の主張による問題が起こらないようにする予防策はあります。それは、遺言書を作成しておくことです。

 

最近では遺言書を利用する人も多くなってきましたが、遺言書に不動産の分割方法を示しておけば法的効力を伴うので、相続人に有無を言わさず確実に実行されます。それがたとえ、一部の相続人にとって不平等な分割になったとしても、親の遺志であればたいていの子は納得するものです。

 

もし納得するかどうかが心配であれば、「付言」という形で相続人へのメッセージを遺言書に書いておくこともできますので、それを利用して分割の理由や事情をわかってもらうようにします。

 

それでも心配と言うのであれば、生前のうちに直接話しておいてもいいかもしれません。親と一緒に腹を割って話を進めておくことで、腑に落ちる人もいることでしょう。

 

筆者が担当した事例で、遺言書がないにもかかわらず、もめごとも起こらずスムーズに遺産分割協議ができたケースを紹介しておきます。

8人兄弟。妹は亡母を介護。…財産どう分ける?

それは、父が先に亡くなっていて、母が亡くなった時の二次相続のことでした。相続人の子は全部で8人いました。8人も兄弟がいれば、かなり難しい遺産分割協議になってもおかしくないのですが、そこをうまく長男が取り仕切ったのです。

 

まず、財産の評価を皆が納得するように市場価格で設定しました。それから、皆に平等の分割を考えます。平等なだけではなく、生前に母を介護していた長女にはそのまま自宅を相続させるなどの配慮をしました。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

このような生前の親の介護に対する配慮は、実はかなり重要なポイントです。親の介護をしていなかった兄弟たちと同等の財産を相続するといっても、通常それはそうそう納得できることではありません。介護は、体力的にも精神的にも、また金銭的にも負担が大きいものです。長男はそのことへの配慮も忘れずに考えていました。

 

そして、相続税に関しては、長女に小規模宅地等の特例を適用し、最大限に減額しておいて、残った相続税を皆で按分するようにしました。税額は減っていることもあって、8人の相続人で負担すれば、そう高額にはなりませんでした。納税に関して言えば、8人も相続人がいることがプラスとなって働いたようです。

 

この相続は、最後までもめごとも起こらず理想的な相続でした。相続人全員で集まって何度もディスカッションを重ねていた結果ではありますが、介護への配慮によって誰も不満を漏らさずに自宅という不動産を相続することができたのです。このような事例こそ、これから相続を迎える人は見本にすべきだと思っています。

 

分割しにくい不動産があったとしても、均分相続制度に振り回されないように対策を考えて実行すれば、問題を起こさないようにすることは十分に可能です。

日本の相続制度は、そもそも「もめやすい」と心得る

ちなみに、均分相続制度はアメリカなどの影響を受けて制定されたとお伝えしましたが、実際にはアメリカはそのような相続制度ではありません。アメリカでは、自分の最後の意思として遺言を残すという考えが広く浸透しているため、遺言を執行することを前提とした相続制度になっており、原則として均分で相続するといった考え方はありません。

 

検認裁判(プロベート)というものが行われることになっており、遺言がある場合は、遺言によって指定された執行人が、州法に従って遺産を分配する手続きをします。日本のように相続財産をもらう相続人が相続税を納付するのではなく、被相続人が納付しなければなりませんので、相続財産がすぐに相続人のものとなることはありません。権限を与えられた執行人が十分な調査をしてから被相続人に代わって相続税を納付し、残りの財産を遺言通りに相続人に順次配分していくという流れになっています。

 

確かにそのような制度であれば、相続税の納付に右往左往することもなく、相続人同士による分割の争いも比較的起こらずに済むように感じられます。

 

しかし、現状の日本は均分相続制度です。ここではアメリカを例に出しましたが、日本は他の国と比べても問題が起こりやすい制度を採用している、そういった視点をもって自分の相続を見つめることは、これからの相続対策に対する意識を高めるための1つの参考になるかもしれません。

倉持会計事務所 所長

公認会計士・税理士。
東京生まれ。昭和46年慶応義塾大学経済学部卒業後、大手監査法人勤務。昭和57年倉持会計事務所開業。個人の資産家から一般企業まで幅広く税務・会計コンサルティングを行っている。特に相続対策・事業承継・財産形成については以前にも書籍を執筆するなど豊富な専門的知識と経験を生かしセミナーや相談会も積極的に行っている。相続のプロとして中立的な立場で「無理な節税」より「資産を守る」ことを重視するアドバイスで定評がある。

著者紹介

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本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『ワケあり不動産の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ワケあり不動産の相続対策

ワケあり不動産の相続対策

倉持 公一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

ワケあり不動産を持っていると相続は必ずこじれる。 相続はその人が築いてきた財産を引き継ぐ手続きであり、その人の一生を精算する機会でもあります。 にもかかわらず、相続人同士が財産を奪い合うといったこじれた相続は後…

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