書籍『「儲かる」社長がやっている30のこと』から抜粋したものです。税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税務調査は長引かせたほうが効果的な場合もある?

税務調査については様々な誤解が流布しています。不適切な誤解に基づいて間違った対策を行ってしまったために、いたずらに不利益な状況を招いているケースも見られます。そうした事態を避けるためには、税務調査に関する誤解を改めておくことが必要となるでしょう。

 

以下、多くの経営者が陥りがちな誤解を例にとり、誤解を正したうえでどのような対策を行うべきかについて順に解説していきましょう。

 

【誤解1】税務調査はとにかくスピーディに終わらせるべき

 

経営者の気持ちとしては、もちろん、税務調査から一刻も早く解放されたいでしょうし、実際、その方が精神的によいことは確かかもしれません。しかし、税務対策の面から見た場合に、早く終わらせた方がいいか否かはまた別の問題になります。

 

税務調査にも期限があります。上半期であれば12月に、下半期であれば翌年6月までに、調査官は作業を終わらせる必要があります。期限が近づけば近づくほど、細かいところまでは手が回らなくなり、調査に関して妥協せざるを得ない部分が出てくるでしょう。

 

それこそ、期限ぎりぎりになれば、仮に提出していた申告書に少なからず問題点があったとしても、「申告漏れは全て見逃さない」というような態度を調査官が貫くことは困難になるはずです。すなわち、よほど重要な問題でなければ税務署側の指摘を逃れられることになるかもしれません。このように、税務調査は、むしろできるだけ長引かせるように努めることが1つの効果的な対策手段となるのです。

税法の知識より「論点を明確にできる」能力が重要

【誤解2】税法や判例に詳しくあるべき

 

調査官は皆が皆必ずしも税法や判例に通じているというわけではありません。そのため、調査官から受けた指摘が、判例の解釈によれば、明らかに間違っているということもあり得ます。

 

したがって、税法や判例に関する知識は、調査官の指摘に対して反論する際の強力な武器になることは確かです。もっとも、より大切なのは「知識があること」自体よりも、「知識をどのように使うか」ということです。

 

たとえば、同じようなケースに対してAという判例(判決)は税務署側を勝たせているのに対して、Bという判例(判決)は納税者側を勝たせているようなことがあります。一見すると、2つの判例は矛盾しているかのように見えるかもしれません。しかし、それぞれの判決が下された事案を詳しく検討すれば、細かな部分で事情が異なっていることに気づくでしょう。

 

事情が異なれば、当然、下される判決も異なる可能性があります。したがって、調査官の指摘に対して反論を行う場合には、自分にとって有利な判例を引っ張ってきて、それをもとに理論構成を行うことが必要となるわけです。そのためには、前提として、何が問題になっているかを理解し、法的に論点を明確にできる能力も求められることになるでしょう。

 

逆にいえば、論点さえ明確にすることができれば、必要となる判例の知識は、書物やインターネットなどを使って後で手に入れてもいいわけです。

 

そのような意味では、知識の使い方さえしっかりと理解しておけば、必ずしも税法や判例に詳しくなくても構わないということがいえるかもしれません。

税務調査は「長引くほど有利」と考えれば…

【誤解3】事前資料はすべて完璧に準備しておくべき

 

税務調査が入るときに、事前の準備として資料をきちんと整備しておくことは、調べる側、調べられる側双方にとって、やり取りをスムーズに進められるというメリットがあります。しかし、先に述べたように、税務調査は長引かせれば長引かせるほど有利になりえます。そのためには、むしろ資料を巡るやり取りがスムーズにいかない方が望ましいとさえいえるのではないでしょうか。

 

たとえば、調査官から、「○の書類はありますか?」と尋ねられたときに、「あります。どうぞ」とポンと手渡すよりも、「あっ、待ってください。それは違う部署の管轄なので、ここにはありません。担当者に聞いてきます」といって、結果的に調査官を待たせるような状況の方が、好ましいといえるかもしれません(もちろん調査官に意地悪をしているわけではなく、一所懸命探しているにもかかわらず、お目当ての資料がなかなか見つからない状況を想定しています)。

申告書には余計な情報は一切書かないほうが無難

【誤解4】申告書には取引先の情報をすべて漏らさずきちんと書くべき

 

申告書の中には売掛金や未払金、借入金の額について記載する箇所があります。しかし、どの取引先に対する売掛金、未払金なのか、あるいはどの金融機関から借り入れたものなのかという具体的な情報を細かく書くことまでは求められていません。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

にもかかわらず、税理士の中には、手抜きと思われたくないのか、取引先の情報を全て漏らさずしっかりと書く人がいます。あくまでも筆者個人の見解になりますが、このような完全主義的な態度は税務対策という観点からは決して望ましいものではありません。

 

法定外資料に関して先に触れたように、税務署側に情報を提供しないことも1つのテクニックです。取引先の情報を伝えたら、調査官は「ではそちらも見てみよう」と取引先の申告書をわざわざ手配して細かくチェックするかもしれません。その結果、万が一、自社と取引先の申告書の記載に矛盾する点などがあれば、最悪の場合、自社の申告漏れを疑われてしまうことになるかもしれません。

 

また、どの取引先に売掛金があるかを税務署に把握されていると、会社の経営が厳しくなり税金が払えなくなったような場合に、売掛金をすぐさま差し押さえられるおそれもあるでしょう。このような自社にとって不利益な状況がもたらされるおそれがあることを考えれば、申告書には義務づけられていることだけを記載し、余計な情報は一切書かないことが無難といえるでしょう。

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    本記事は、2015年11月12日刊行の書籍『「儲かる」社長がやっている30のこと』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    「儲かる」社長がやっている30のこと

    「儲かる」社長がやっている30のこと

    小川 正人

    幻冬舎メディアコンサルティング

    改善の兆しが見えてきたといわれる日本経済ですが、その恩恵を受けているのはほとんどが大企業であり、多くの中小企業はむしろ窮地に立たされているのが現状です。 円安による原材料費などの高騰、人件費上昇や電気料金の値上…

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