米国・大リーグのカブスに所属するダルビッシュ有選手が今季絶好調の活躍を見せ、日本人初のサイ・ヤング賞受賞の期待も高まっています。そんな中、頭をよぎるのが、ダルビッシュ有選手をはじめ、大リーグで活躍する日本人選手たちの年俸――。今年の推定年俸では、ヤンキースの田中将大選手が2300万ドル(約24億4500万円)、ダルビッシュ有選手はチームトップの2200万ドル(約23億3900万円)だそうです。ちなみに、日本プロ野球の年俸1位は、巨人の菅野智之選手で6億5000万円。果たして、球団経営も中小企業の経営も、莫大な資金力がなければ、勝利を掴めないのでしょうか? 資金力に乏しい中小企業の必勝法とは――。上場企業から中小企業まで幅広く経営支援を行っている森琢也氏が、大リーグの例を参照に解説します。
米国・弱小プロ野球チームの「貧者の戦略」とは
米国の野球チームはどこも豊富な資金力を有しているのか? 答えはNoです。2011年公開のハリウッド映画『マネー・ボール』をご存知の方も多いかと思いますが、この映画はブラッド・ピットが実在の人物ビリー・ビーン(オークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー)を演じ、経営危機に瀕した球団を再建する姿を描いた実話に基づく作品です。
2002年当時、貧しい球団であったアスレチックスは、年俸総額1位のニューヨーク・ヤンキースに比べ、その3分の1程度の予算でリーグ最低レベルの4000万ドル。にもかかわらず、全30球団中最高勝率・最多勝利数を記録し、20連勝達成。「野球が金銭ゲームになってしまった」と嘆く声が増える中で、資金力や選手の年俸総額がイコール勝率とならないことを知らしめました。
豊富な資金や人材を抱える大手企業に挑む中小企業経営者の方々に、この大リーグの事例からぜひ参考にしていただきたいのが、「経営指標」の見直しと活用です。
アスレチックスの躍進を支えた秘訣の一つが、データの活用だと言われています。従来、野球の勝敗に大きな影響を与える指標の一つとして「打率」があげられており、この打率を管理することが優勝への重要なプロセスであると考えられていました。このことは、チームが優勝という成果を引き寄せるためには高い打率を維持できる選手の確保が重要である、ということを示していますが、低予算のアスレチックスは高額年俸の打率の高い選手の獲得は困難でした。
そこで、彼らはセイバーメトリクスと呼ばれる統計学的手法を用いて、「勝利につながる指標」を洗い直したところ、打率以外に隠れた重要指標があることを突き止めます。それが「出塁率」です。従来、「打率」イコール「出塁率」と多くの専門家・関係者が思い込んでいたものの、野球の場合、打たなくても1塁に進む方法があります。それが、フォアボール(四球)です。
「勝つためには、とにかく1塁に進むことが重要」と考えた場合、ヒット数に加えてフォアボールを選択できる選手が、より勝利に貢献できる選手となるわけです。選手の評価指標を「打率」から「出塁率」に置き換えたアスレチックスは、予算内で戦力を揃えることに成功します。
フォアボールによる出塁は、野球に詳しくない方でも知っている、とても有名なルールです。後から聞けば、「打率より出塁率が大事」という話はとてもシンプルで、当たり前に聞こえます。しかし、1903年から続く米国大リーグの歴史の中で、長らく重視されてこなかった、という事実も見過ごせません。
なんとなく指標管理は危険…勝敗を決める数字か?
実は、企業経営の中でも「当たり前」と思い込んでいるがために、「なんとなく」指標管理を行ってしまうケースは多々見られます。経営者や管理職の方々は、経営目標や売上目標の達成に向けて、いくつかの指標を管理しているケースが多いと思いますが、果たしてそれは本当に「目標達成につながる指標」になっているでしょうか? 先述の野球のケースのように、「『打率』も大事だけれど、勝敗を決めるのは『出塁率』だった」というオチが待っている可能性はないでしょうか?
例えば、『俺のイタリアン』などを経営する「俺の株式会社」では、一般的に高級料理店が「高級店にくる顧客はゆったり時間を過ごすため回転率は高めづらい。経営改善するためには、原価率、客単価である」と考えていたところ、真逆の発想で「原価率や客単価よりも、回転率」と重視する経営指標に変えたことが革新的だったと言われます。
業界に長くいるからこそ、自身の属する業界の当たり前に疑いを感じず、目が曇ってしまうことはよくあることです。しかし、その他大勢から抜け出すためには、改めて最適な経営指標・目標値を見極めることが大切です。
MASTコンサルティング株式会社 コンサルタント
中小企業診断士
プロフェッショナルコーチ
大学卒業後、(株)デンソーに入社し、約10年間経営企画や事業企画に従事。25歳で中小企業診断士試験に合格し、大手資格予備校にて中小企業診断士講座の難関2科目(財務会計・経済学)を長らく担当。現在はコンサルタント・プロフェッショナルコーチとして活動中。
上場企業から中小企業まで、会社規模を問わず、働く人の気づきや成長を引き出しながら経営支援を行っている。
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MASTコンサルティング株式会社執行役員
中小企業診断士
1971年生まれ。中京大学文学部心理学科卒業後、大手食品商社で営業職として主に全国量販店を担当し、販路拡大、商品開発などに携わる。その後、公的産業支援機関で1700件、220社を超える経営相談に応じた経験を持つ。企業や商品のセールスポイント生かした、お客様から『選ばれる』ための具体的なマーケティング戦略の立案から実行までを支援。自身の経験と知識を生かし、経営者の「もうひとつのチカラ」となる中小企業支援を志している。
グロービス経営大学院経営研究科経営専攻(MBA)。
株式会社MASTコンサルティング
中小企業診断士を中心に税理士、弁護士、社会保険労務士など、50名以上の国家資格保持者が所属するコンサルティングのプロフェッショナル集団。
所属メンバーは、財務・税務・人事・法務・マーケティング、また製造業・卸売業・建設業・サービス業・ITなど、職種や業界ごとの得意分野を持ち合わせています。中小企業の経営に必要な知識と経験を活かし、中小企業経営者をワンストップでサポートします。
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認定経営革新等支援機関
中小企業診断士を中心に税理士、弁護士、社会保険労務士など、100名以上の国家資格保持者が所属するコンサルティングのプロフェッショナル集団。
所属メンバーは、財務・税務・人事・法務・マーケティング、また製造業・卸売業・建設業・サービス業・ITなど、職種や業界ごとの得意分野を持ち合わせる。
中小企業の経営に必要な知識と経験を活かし、冷静な判断、熱き心を持って、中小企業経営者をワンストップでサポート。
MASTコンサルティング株式会社:https://www.mast-c.com/
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