「社長の教祖」と異名を持つ一倉定氏は経営者をよく叱った。叱られるたびに多くの経営者は目を輝かせた。社長の教祖は「世の中に、良い会社とか悪い会社なんてない。あるのは良い社長か悪い社長だけである。会社は社長次第でどうにでもなるんだ」と断言したという。なぜ、令和の時代に「一倉定」が注目されるのか。本連載は作間信司著『伝説の経営コンサルタント 一倉定の社長学』(プレジデント社)からの抜粋です。

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机上の空論を嫌い、徹底した現場・現実主義の指導

一倉先生が最も嫌ったのが、経営学と称し実質は内部管理学でしかない観念論と人間関係論である。会社の内部にあるものは全て経費であり、経費をどう扱おうが業績は伸びない。競合の動きも営業最前戦の苦悩もない人間関係論に至っては「会社が潰れないことを前提にした平和な春の野のピクニック理論」と手厳しい。

 

作間信司著『一倉定の社長学』(プレジデント社)
作間信司著『一倉定の社長学』(プレジデント社)

売上利益の向上は、会社の外におられるお客様を訪ね、欲求、不平をつかみ、満足する商品・サービスを提供することでしか実現しない。この当たり前の現実が、先生自身の幹部社員時代の倒産体験と数多くの指導現場で血を吐くような努力で体得した根本思想である。だから社長への指導は、資金の確認を早急に終えると、お客様を訪問し自身の目で見て、お客様の声を直接聞き、ご要望を実現するために、社内がどんなに混乱しようともできる方法を考えさせ実行させたのである。

 

そこで社長が、営業からの報告をそのまま話そうものなら、たちまちカミナリが落ちる。自分の目と足でつかんだお客様のことと聞いた話の違いを、たちどころに先生に見抜かれてしまい、会社の存亡に関わることを社長自らやろうとせず、社員任せにする性根を徹底的に叩き直されることになるのである。

 

社長であっても多くの場合、口ではお客様第一と言いながら実際には自社の都合第一、会社の目先の利益重視で行動するのであるから、社員はなおさらである。

 

私も実際にレストラン経営の社長と一緒に店舗回りをしていたときに、こんな事件に遭遇したことがある。社長と2人で昼食を兼ねて試食をしていると、社長が首をひねり始めた。「どうしたんですか?」と聞いてみると、不安そうな顔で答えるのである。

 

「いや~、スープの味がちょっと違うような感じがしてね」と社長が言い出し、さっそく、店長にテーブルに来てもらった。社長が「スープ、何か変えた?」と聞くと、「いいえ、何も!」と店長がもじもじ答える。

 

社長は何か感じ取ったようで「○○店長、怒らないからどうしたのよ?」と聞き出すと、店長がうつむきながら「最近、お客さんが少なく赤字が続き、社長にこれ以上迷惑をかけられません」と話し出した。コストを下げ原価率を守り、利益を確保するためにスープの素材を安い材料に変えたとのことであった。

 

決して悪気があってのことではなく、利益責任を感じて店長は店長なりに考え、結果的にお客様を失う努力を一生懸命やっていたのである。

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一倉定の社長学

一倉定の社長学

作間 信司

プレジデント社

「社長の教祖」と異名を持つ伝説の経営コンサルタントは経営者をよく叱った。しかし、叱られるたびにに多くの経営者は目を輝かせたという。ユニ・チャーム、ドトールコーヒー、サンマルクカフェなどの創業者たちは教祖の一喝か…

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