買収された家電メーカー代表、病院事務職に転職
【Gさんの事例】
似たような話がもうひとつあります。
大手家電メーカーの地方支社トップだったGさんという方が、東日本を拠点にする病院の事務長に転身して、着々と実績をあげています。これも、家電メーカーから病院へという異色の転職ですが、話を聞けば非常に納得できる内容です。
Gさんの場合は30代より少し上の、40代後半での転身でした。きっかけは、Gさんがトップを務めていた家電メーカーの支社が外資系企業に売却されたことでした。Gさんには、そのまま責任者として残る選択もあったのですが、いずれは外資系の経営スタイルが導入されてリストラが始まるだろうという予測がつきました。
また、自分がリストラされるだけならいいのですが、自分の手でかつての部下たちをリストラしなければならない局面も考えられます。さらには、Gさんが残るならばと、Gさんを慕っている他の従業員も残ると言い出したのです。いずれ本国の指令でリストラが始まるのなら、早期に決断を求めていったほうがいいだろうと、Gさんは部下たちのためにも自ら会社を辞めることを決断しました。外資系トップからは、引き続き代表になってほしいというオファーを受けていたにもかかわらずです。
ちょうど同じ時期に、私が東日本の病院から事務長を探してほしいという依頼を受けていたので、Gさんにオファーして話を進めることにしました。従来型の病院の事務長というと、医療界の専門知識をしっかり持っており、診療報酬の点数管理ももちろんできる。あるいは地元の銀行、金融機関からの出向を受け入れているというイメージだったと思います。
ところが、先ほどのYさんのところでも書いた通り、最近の地方の拠点病院はそれだけではないのです。例えば、街づくりでは、要は森ビルのようなことを病院が中心になって行っていくことになります。
高齢化社会がさらに進むと高齢者向けの住宅が必要になってくる。国の政策としても、高齢者をいつまでも病院に留めておかないようにする方針です。そうなると、地域と病院・医療機関の連携が不可欠です。介護タクシーも必要ですし、高齢者が自宅で過ごすことになると、食事はどうするのかという問題も起こってくる。じゃあ、病院の給食センターで食事をつくって、それをデリバリーしましょうという話になり、介護タクシーとの連携を考えるなどのアイデアも必要になります。
あるいは、リハビリ・健康維持ということであれば、病院が大手スポーツジムがやっているようなメディカルフィットネスクラブをつくりましょうという話も出てきます。森ビルとまではいかないまでも、どんどん街づくりに入っていくようになるのは間違いありません。まさに、事業開発、企画開発なんですね。
そこで必要とされるのは、従来の数字の管理ができるスペシャリストではなく、プロデューサー型の人間です。Gさんはまさにぴったりの人材でしたが、それだけではありません。病院も大規模な事業体になると薬の管理や医療機器・機材の管理などに加え、人も増えてくるので人材管理など多様なマネジメントが要求されます。これが、家電メーカーの工場管理に非常に近かったのです。家電メーカー、とりわけ部品と部品を組み立てていくアッセンブリメーカーの部品管理、労務管理はそのまま病院の運営にも応用できるのではないかと考えました。
もうひとつは、企業買収の経験です。前述の通り、Gさん自身は買収する側ではなく、買収される側で関わったのですが、交渉の過程にはずっと立ち会っていました。病院がこれから事業拡大するにはM&Aの手法が必要となります。そこにもGさんの経験を活かせます。
順調に転職したのち、すぐにその手腕を発揮し、さまざまな改革に着手する一方、早くも病院買収に成功したという便りが届いています。
従来の転職市場はスペシャリストが多いというイメージでしたが、いまは逆にGさんのようなプロデューサー型の人材も多く求められる時代になっています。
半蔵門パートナーズ
代表
武元 康明