住宅業のトップ営業マン、食品メーカー企画職へ転職
転職の成否を分けるのは、まず「OS」のマッチングです。私が定義するOSの詳細についてはコンピュータでいうオペレーティングシステム(基本言語)をイメージしてください。
自己のOSは、自分自身が持っている固有の資質や行動原理、理念、信条などです。これが、企業のOS(企業風土)と合っていないと、どれだけ素晴らしいアプリケーションソフト(スキル・実績・ノウハウ)を持っていても起動させることができません。
逆にいうと、自己のOSと企業のOSがマッチしていれば、業種や職種の壁を超えた転身・転職を成功させることができるのです。これからいくつかの事例を紹介しますが、この「OS」という考え方を念頭に読んでいただければと思います。
【Hさんの事例】
まず最初は、東京にある大手住宅設備会社のトップセールスマンが、30代後半で地方の食品メーカーの経営企画室のIR部門(投資家向け広報)に転職して、課長代理から、室長、取締役、最後は副社長にまでなったケースです。
転職先の食品メーカーは当時、IPO(株式公開)したばかりでIR部門の強化が課題となっていました。こういう場合は、財務経理出身者から人材を探してくるというのが当たり前の時代でしたが、当時の食品メーカーのオーナーの、会社のさらなる成長のためには、専門性よりも広い視野が必要との判断から、財務経理にこだわらない採用を模索しました。
上場したての会社だったこともあり、外部に対する経営情報の発信はもちろんのこと、内部への情報発信も重視していきたいという思いがあったのです。
情報発信力の本質について考えた経営陣は、財務経理のように数字に明るいことに加えて、コミュニケーション能力を持った人が必要なのではないか、では、そのコミュニケーション能力を持った人はどんな職種に多くいるのか……と考え、ひとつは営業だろうという結論になったのです。
セールスマンから経営企画室というと全然違う仕事のようですが、実はそうでもありません。まず数字に強いこと、営業的なセンスと情報発信力を持っていること。さらにもうひとつ、フットワークがあるというのが営業職の魅力ですが、それはその食品メーカーが考える「経営企画」に必要とされる資質でもありました。
とくに社内に対しての情報発信は電話やメールでなく、足を運んで、顔を見せながらフェイス・トゥ・フェイスでするということが重要になってきます。そこで、住宅資材メーカーのトップセールスマンだったHさんに白羽の矢が立ちました。
Hさんはもともとその食品メーカーがある地方の出身で、ある時期からUターンを考え始めていました。それまでは営業職しか経験がなかったけれど、将来は経営職を目指そうという意識もあって中小企業診断士の資格を取ったりもしていたのです。
おそらく、Hさん自身が自分自身の資質をよく知っていたのでしょう。「経営職をやりたい」というよりも「営業職だけでは満足しない」という思いがどこかにあったのだと思います。自分をよく知り、思考、行動特性を知り、その能力を発揮できそうなポジションを探していたのです。
そこで当時、急成長中だった食品メーカーの経営企画室の話を私から持ちかけたところ、とんとん拍子に話が進んで入社することになりました。入社後は、まさに思惑通りHさんの能力がいかんなく発揮され、会社はますます成長し、本人は副社長にまで出世しました。最終的には会社がある外資系の傘下に入ったことで、Hさんもそれを機に退任されたということです。
成功の要因にはもうひとつ、Hさんの資質が、「成長期」という会社の経営ステージ(これについては後で説明します)にジャストフィットしていたことがあげられます。一流住宅資材メーカーの営業マンとしてトップを張るということは、What構築能力(創造的・戦略的思考)が必要です。それはそのまま、拡大・成長期の企業に必要とされるものなのです。
いずれにせよ、さまざまな要因がうまくハマった成功例のひとつです。こうなると、Hさん個人にとっても、会社にとってもウイン・ウインの関係になれるわけです。