ホテル広報担当から、病院の経営企画室へ転職
【Yさんの事例】
次は、Hさんがいた会社とはライバル関係にある大手住宅設備メーカーからホテルの広報担当を経て、地方病院の経営企画室へ転職した人の話です。仮にYさんとしておきましょう。
Yさんはもともと「街づくり」の仕事に就きたいという将来の夢があって、大学では建築工学を学びました。が、新卒の就職では、街の最小単位である住宅、そしてその中をさらに細分化した住宅設備機器のデザインから入って、徐々に裾野を広げていこうという思いから、住宅設備メーカーの会社に入ったということでした。
バスユニットやトイレのデザイン設計を数年手がけ、30代半ばで有名ホテルチェーンの広報担当に転職するのですが、そこで3年ほど経験を積んだところで再び転機が訪れます。キャリアパスをしてGMになるか、それとも一広報マンとして職業人生をまっとうするかという選択でした。GMになると年俸が約600万円、その上の執行役員になると約1800万円になるということでした。
本人としては、そのホテルでGM、執行役員という出世の道もありだという思いがあった一方、当初からの「街づくり」の夢も諦めきれなかったのです。親の介護の問題もあって、いずれは実家のある西日本へ戻りたいという希望もありました。同じ会社で「上」を目指すにしても、あと5年、6年はかかりそうな状況でもありました。
結果として選んだのは、実家のある地元病院の経営企画室への転職でした。これは知っておくといい情報だと思いますが、いま地方の病院は街づくりの中核として期待されるケースが増えています。Yさんが転職した先の病院も経営者が未来志向で、新しい病院づくり、街づくりに熱心なところで、国の政策にもマッチして時流に乗っていることもあって、非常に伸び盛りな病院でした。
もちろん、医療業界というまったく知らない世界への転職に、Yさんも当初はかなり躊躇していました。それはそうだと思います。街づくりには興味があっても、医療にはまったく興味がなかったはずです。
そこで私がカードとして出したのが医療業界の将来性でした。ある政府系シンクタンクがこれから就業人数が増えていく業種を3つあげていて、そのうちのひとつが医療でした。2つ目が情報通信、3つ目がその他サービスです。この3つでいちばん有望なのが、実は医療業界なんですね。
2030年に向けて、その他サービスと情報通信は就業人口がだいたい15万人から20万人の雇用増加になるだろうといわれていますが、医療は200万人増とけた違いです。つまり、これからの成長産業として楽しみであり、やりがいもある分野ということです。
そして、Yさんの夢だった街づくりとの関連です。確かに東京のような都市部では病院がそこまで乗り込んでくることはありませんが、地方では徐々に普通になってきており、高齢化社会に向けて、病院を中核とした街づくりが注目されつつもあります。Yさんが転職先に選んだ病院もまさに、そういう存在でした。
Yさんが転職を決意した理由は3つ。ひとつは医療業界が成長産業であるということ、2つ目は、その病院が本人のそもそもの志向であった「街づくり」にすでに乗り出していること。そして3つ目に今までのキャリアを活かせるということでした。
彼は建築工学を修めて街づくりのデザイン設計の知識があり、さらにホテルチェーンで広報を担当していたという経験もあります。病院側では、その広報スキルにも期待し、転職後は、それを足がかりにしながら、徐々に経営企画室全体の業務を覚えて、いずれは病院全体の事務系のトップになってもらう、そういう候補として転職することになったのです。