本記事は、中小法人の「社長の給料」はいくらに設定すべきかを見ていきます。

社長は欲しいだけの給料をもらってよい!?

「社長=お金持ち」。

 

子供のころ、会社の社長といえば、そんなイメージを持っていた人も多いのでは? 大人になり、実際になってみると「オイシイ話ばかりではない」という厳しい現実を目の当たりにするわけですが・・・。

 

ともあれ、社長の給料はどのくらいに設定するのが妥当なのか? その質問の答えとしては、「欲しい額に設定してください」が、私の考えです。

 

もちろん、今後の利益の見通しや法人・個人の納税額のバランスなど、さまざまな視点から適正額を算定する必要がありますが、設立初期の場合でしたら節税の観点からいっても、会社の利益はほぼ残さず、役員報酬に回すくらいでもよいでしょう。

 

利益が多ければ多いほど、法人税などが跳ね上がるためで、大体トントンに持って行くのが多くの中小法人のやり方です。

 

ただし、「欲しい額」といっても、「自分が欲しいだけもらっていい」というのとは違います。社長の給与設定はあくまでも売上から費用を差し引いた「利益」の範囲内で考えることになります。つまり、「儲けが出ているのであれば、どうぞ!」というわけです。

 

会社の売上に手を出すのは論外として、もらった額をそのまま全部使い果たすような行為も、リスクが高いものと言わざるをえません。なぜなら、万一、経営が傾き、経費カットの必要が出てきた場合、真っ先にターゲットとするべきは社長の給与だからです。

 

その際に貯えがまったくないようだと、事業だけでなく、日々の生活も困窮を極めることになりかねません。また、資金繰りの悪化や倒産の危機などの事態が起こった際には、やむなく個人のお金を事業に入れざるをえないこともあるでしょう。

 

経営者個人の財産形成をもおろそかにしないことも、長く安定した経営を続けていくためには、忘れてはならないポイントのひとつなのです。

安易な「社長借入金」は将来のリスクに…

ただし、個人のお金を会社の運営資金に回した場合の「社長借入金」については注意すべき点があります。

 

あくまでも一時的な借入であり、その後、事業の回復、返済の目途が明らかであれば問題ありませんが、「資金繰りがよくなったら、返してもらおう」という考えでは、返済は先延ばしになりがち。ゆくゆく大きなリスクを抱えることにつながりかねません。

 

そのリスクは社長個人、つまり自身が亡くなった際に顕在化します。

 

社長と会社は「別の人格」であることはすでに申し上げた通り。つまり、社長借入金があるということは、経営者個人の視点から見れば、「会社にお金を貸している(貸付金を有している)」ことになります。よって、「社長借入金」は社長個人の財産として、相続税の対象になるのです。

 

相続財産総額が、基礎控除額内(3000万円+600万円×法定相続人の数)で収まれば、相続税は免除となりますが、社長借入金が多く積み重なり、放置されたままといったケースだと、税金の負担が重くのしかかるハメにもなりかねません。

 

相続に備え、社長借入金を解消するには、次に挙げるような対策をとる必要があります。

 

役員報酬の一部や、役員退職金を社長借入金で支払う

役員報酬を減額し、その分を借入金の返済で支払う。あるいは、退職金を全額、借入金返済で支給します。

 

債務免除する

経営者が債権放棄することで、借入金の返済を免除する方法です。

 

注意点としては、前者については、役員報酬や退職金を全額経費処理するケースに比べ、経費が減り、後者は返済を免除してもらった分、債務免除益という利益が増えることになります。どの方法をとるべきかは、状況によっても異なるため、プロと相談しながら、実施することが肝要です。

法人決算で重要な損金等の算入・不算入の申告調整

「青色申告65万円控除も、自分でなんとかクリアできた」という個人事業主の方も、法人の確定申告となると、途端にハードルが高くなります。

 

申告書類の数は、明細書や付表なども合わせると、なんと100種類以上! 一般的に提出が必要となるのは10種類程度ですが、それぞれ小難しい名称や専門用語が羅列されており、「見ただけでギブアップ!」という声も・・・。

 

では、法人決算と個人事業の決算のもっとも大きな違いは何なのか。

 

個人事業の場合は、個人の場合と同じく所得税法が適用されるため、単純に会計上の「利益(売上)」から「費用」を差し引き、利益を算出。そこに税率をかければ納税額が算出されます。

 

しかし、法人の場合は、企業会計上の利益を出発点に、法人税法上の「益金」と「損金」の算入、不算入の申告調整をし、納税額を出す必要があります。

 

つまり、

●個人「収益(売上)-費用=利益」

●法人「益金-損金=所得」

となるわけです。

 

そして、法人決算の場合、

●会計上は費用にならないが、税法では損金になる=損金算入

●会計上は収益でも、税法では税金の対象(益金)にならない=益金不算入

●会計上は費用でも、税法では損金にならない=損金不算入

●会計で収益でなくても、税法では収益(益金)となる=益金算入

 

の、4つの税法上の加算・減算をしなければなりません。そこが、個人事業の確定申告には手慣れた人でも、わかりにくいポイントとなります。事例を挙げると、資本金1億円超の企業の場合、交際費全額が損金不算入となります。

 

ただし、飲食費が1回1人当たり5000円以下ならば、交際費から除かれます。会社員時代、取引先との飲食費について「1人5000円までという規定があった」という方もいらっしゃるでしょう。これは交際費から除くためというわけです。

 

ただし、中小企業の場合は、交際費の一定額が損金算入可能となります(交際費800万円まで)。

自力で法人決算を行うには、相応の勉強と時間が必要

こうした細かいポイントを含め、法人決算はなかなか手ごわいもの。「時間があって勉強したい」という方は、税務署でも相談に乗ってくれますので、トライしてみてもいいでしょう。

 

ただし、個人の確定申告と違って、国税局の支援サイトなどもないため、自力でトライするには、相応の勉強と時間が必要となります。また、知識不足で間違った申告をすると、後に修正申告や追徴金支払いのリスクもあります。

 

 

櫻井 成行

関東信越税理士会行田支部 税理士

 

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本連載は、2017年2月24日刊行の書籍『どんどん貯まる個人事業主のカンタンお金管理』(幻冬舎メディアコンサルティング)から抜粋したものです。その後の法律、税制改正等、最新の内容には対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

どんどん貯まる個人事業主のカンタンお金管理

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櫻井 成行

幻冬舎メディアコンサルティング

個人事業主にとって、日々のお金の管理や確定申告は、頭を悩ませることのひとつです。忙しい仕事の合間を縫って、毎年〆切ギリギリに何とか税理士に資料を提出する、という人も少なくないでしょう。数字や計算が苦手な人は特に…

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