良い子から駄々っ子に急変…子どもの気性が激しい理由
ついさっきまで、ちゃんと言うことを聞いてくれる良い子モードだったのに、急に言うことを聞かない駄々っ子モードに…。子どもにはよくありますよね。電車、レストラン、スーパーマーケットなどなど、わがままを言われると困るというタイミングに限って、そうなったりします。泣きわめく子どもに、「もうちょっとガマンして~」と言ってもまるで通じません。泣きたくなるのはこっちだよ! そんな経験は、親であれば誰でもあるでしょう。
なぜ、子どもの気性はこうも落差が激しいのでしょうか? まるで人格が2つあるかのようです。それもそのはず、実は人間は「理性的な脳」と「原始的な脳」の2つの脳を持っているのです。理性的な脳がしっかり働いているとき、子どもは良い子モードでいてくれます。親としてすべきは、お子さんに「理性的な脳」の使い方を教えてあげることです。まずはこの脳の仕組みからお伝えしていこうと思います。
子どもの脳を、2階建ての家だと考えてください。「自動的プロセス」と「統制的プロセス」、「システム1」と「システム2」など書籍や研究者によって呼び方は異なりますが、大まかに言って1階が直感で、2階が理性です。この2階建てで脳ができている状態をイメージすると、人間の行動・思考をイメージしやすくなります。
簡潔に説明すると、2階の脳が論理的思考力を担当しています。この2階の脳が、「もしこれをしたら、結果がこうなる」といった未来への見通しや、「あのときこうだったから、今こうなっている」という過去の振り返りを可能にするのです。
さらに、2階の脳は「心の監督」も司ります。つまり学習計画を立て、現時点での状況を監督目線で客観的に分析し、成功や失敗の分析をする力は2階の脳に左右されるのです。
理性や論理的思考力は、人間のコミュニケーション能力の進化から派生したと言われています。そして、それは人類の進化だけでなく、1人の子どもの成長においてもそうです。
子どもが独り言を言うようになることが、2階の脳の成長の第一歩です。外に垂れ流してはいますが、考えるために自分に話しかけているのです。大人も物事を考えるとき、頭の中で独り言をしているはずです。考えることのスタートは、子どものときの独り言にあるのです。
子どもが考えを口に出している場面で、論理的思考力が成長しています。お子さんの発言を遮らずに、たくさん喋らせて考えさせましょう。
独り言を使った教育法を「シンキングアラウド法」と言います。子どもは新しい問題に出会ったとき、解決するための頭の使い方を知らない場合があります。そこで、親が独り言をしながら作業することで思考過程をすべて見せます。その後に問題を解かせるときも、すべて子どもに独り言をしゃべらせて確認させます。電車の車掌が指差し確認をするようにして解いていく感じですね。
「わかったつもり」という1階の脳の思い込みも、言葉を使って解消できます。2階の脳で本当に理解しているなら、言葉で説明できるはずなのです。「考えるとは、言葉にすること」「わかっているとは、言葉で説明できること」とは、私たちも繰り返し生徒たちに言い聞かせています。
理性や論理的思考を司る「2階の脳」を育てるには?
お子さんの2階の脳を育てるには、とにかく説明させることです。言葉で説明できることが、2階の脳でわかっているということです。自分の状況を、言葉で説明することで、自分のことを客観視できるようになります。
お子さんが集中を欠き、よくないことをしているときには、「ダメでしょ!」などと評価を下す前に、「何をしているの?」「今は何をする時間なの?」と聞いて、言葉で説明させましょう。
例えば、私たちは生徒が不要な私語をしたとき、「なぜそれを言ったの?」「目的は何?」「どういう良いことがあると思ってしたの?」と聞くことにしています。目的のある私語をしていたなら、この質問に対して「これを聞きたいと思って」「消しゴムを拾ってくれるよう頼んでいた」「問題を考える上での独り言だった」という回答ができます。
しかし、失敗した生徒を冷やかしていた場合、「なぜそうしたのか?」には答えられません。学校での出来事を思い出して「そう言えば…」と関係ない話をしていた場合も、なぜそれを思い出したのかは論理的には説明できないのです。
これらは、「他人をバカにしていい気分になりたい」「なぜか急に思い出したことを伝えて共感されたい」と無意識に考えての行動です。1階の脳の行動は学習の場にはふさわしくありません。こういう感情を持つこと・反応しそうになること自体は特に悪いことではありませんが、場を意識して感情をコントロールする力を鍛えてもらいましょう。
自分を客観的に見ることで「1階の脳」を抑制
ある生徒が、毎回の授業でペンを分解しては組み立てることを繰り返していました。真面目に授業を受けるよう促すものの、「自分はいたって真剣で真面目だ」と言うのです。そこで、授業中ずっと真横にタブレットを置いて撮影しました。
授業後に生徒と動画を確認すると、ペンを分解しては組み立てる姿が記録されています。その動画を見て生徒がポツリ。「こんなことをしていたなんて…」。そう、無意識なのです。1階の脳による行動は無意識に始めているので覚えていないのです。
この生徒は、「動画を撮って毎回確認すると、自己客観視の発見がある」ということに良さを感じたのか、その後もずっと授業中は横にタブレットをおいて動画を撮り続けました。このような経験から、自己客観視の力がつくこともあります。
2階の脳は建設中、「勉強できない状況」に陥ることも
お子さんの2階の脳は建設中です。20代半ばまで建設は続きます。建設中の2階の脳が、時々不具合を起こすのは当然です。親としては、その時の能力不足を悪意や性格の悪さと解釈しないようにしましょう。
サボったり、言い訳を延々と続けたりしていても、「悪い子」ではありません。ただ機嫌が悪く、自分の感情をコントロールできずに困っているというだけです。一種のSOSサインだと捉えましょう。2階の脳は、特に働きにくくなる時があります。ダニエル・J・シーゲルとティナ・ペイン・ブランソン著『子供の脳を伸ばす「しつけ」』(大和書房)では、2階の脳が働きにくくなるときを「すいさつ」とまとめています。
「お腹が『す』いている、『い』らついている、『さ』びしい、『つ』かれている」の4つです。お子さんをよく見て、この「すいさつ」に当てはまる時は、「勉強しない」でなく「今はできる状況じゃない」と捉えましょう。
【まとめ】
計画的に学び、自己修正する力は2階の脳にある。
2階の脳は建設中なので、能力不足やコンディション不良を悪く解釈しない。