夫は、このような妻の要求に不快感を覚えるようになり、遂には同僚の女性と不倫関係になります。そして、夫は意を決して妻に対し、「好きな人がいる、その人が大事だ」、「2馬力で楽しい人生が送れる」、「女の人を待たせている」などといって、離婚を申し入れました。
しかし、妻は、これを拒否し、その後さらにお互いの関係は悪化して夫婦間にはほとんど会話がなくなり、妻の潔癖症に拍車がかかりました。
具体的には、
①妻は、夫がトイレを使用したり、蛇口をひねって手を洗ったりするとすぐにトイレや蛇口の掃除をする
②夫が夜遅く帰宅すると、起床して夫が歩いたり触れたりした箇所を掃除したりする
というようになりました。
結局、その後間もなく夫は家を出て一人暮らしをするようになり、その後妻に対して離婚の裁判を起こした、という事案です。
このケースは、別居してから2年4カ月しか経過しておらず、しかも夫婦には7歳になる子どももいました。この場合、夫が不倫しているので、いわゆる有責配偶者からの離婚請求、というカテゴリーに入りますので別居期間が最低でも6年以上は必要です。
また、子どもも成人していることが必要です。
したがって、法律家の一般的な感覚ではこのケースでは離婚は難しいということになります。
しかし、広島高等裁判所平成15年11月12日判決は、このように短い別居期間で、しかも小さい子供がいても、妻のかなり極端な清潔好きの傾向が婚姻関係破綻の一原因であることや、別居後にまったく夫婦間で家族としての交流がないを理由として、不倫をした夫からの離婚請求を認めました。
これはこれでとても画期的な判決だったのですが、しかし、その後妻側が上告し、結局最高裁判所で平成16年11月18日に出された判決で離婚は認めない、という逆転判決が出されました。
最高裁の判例の理由では、妻の潔癖症についてはまったく触れられておらず、離婚の原因は夫の不倫にあること、別居期間が短いこと、7歳になる子どもがいること、妻が病気で働けず離婚すると妻が生活苦になること、を理由として、夫からの離婚の請求を退けました。このように、最高裁判所の判断は、いわゆる有責配偶者からの離婚請求「3要件」に沿った極めて保守的な判断となっています。