「恐るべしクマネズミ」と何度つぶやいたか分からない
ネズミAとネズミBの区別すらできない。インターネットを利用してネズミに関する情報を検索しても、知りたいことの万分の一も得ることはできなかった。学者、研究者と呼ばれる人たちが公に認めたこと以外、どんなことであれ、信頼される情報としてネット上では扱われないからだ。
過去にこのような研究はなされていなかったということであり、一部の数少ない捕獲具研究マニアが知り得た情報も、極秘扱いされているのか表に出てこない。一から自分で確認する必要があるということになった。
次々に浮かんでくる疑問に対して仮説を立てては確認のために捕獲具の改良を行い、設置を繰り返すしかなかった。地図もなく未開の深山に足を踏み入れるようなものだが、誰も成し遂げたことが無いことに取り組んでいるという自負心と、時々ネズミの社会を垣間見る楽しさは私を夢中にさせ続けた。
節目毎に開発を大きく前進させる結果が出たこともあって、本業の忙しさを紛らわせることができる程度に、夢中になって空き時間を使い思索にふけった。捕獲できなかった場合でも、捕獲具中の金属板に残った足跡からどのような動きをしていたかを知ることができる。失敗は多く手掛かりは少ない。
「恐るべしクマネズミ」と何度つぶやいたか分からない。だが、着実に進んでいた。
いまだに、クマネズミに対する理想的な捕獲具を完成したとは言えない状況だが、奮闘努力の数々を振り返ってみて、後続する一部の捕獲具マニアのためにも、私が十年間で知り得たことを公表する時期がきていると思っている。
人類にとってネズミが再び脅威となる日が来るかもしれないので、その時に役立つよう基礎研究をやっていると常々自分に言い聞かせていることもあり、知り得たことを無駄にはしたくないという思いも強い。また、仕掛けに対するネズミの行動観察と言う側面では、その習性に関する面白い観察事例がいくつかあるので、ネズミの生態に興味を持つ一部の研究者の参考になればいいと思っている。