「小さい、好き…だが必ず滅ぼす」ネズミ vs 駆除プロ男の死闘

「駆除すべき対象としてしか見ていなかった生き物に対して、ネズミさんたちと呼びたくなるほどに親しみを感じている」「解き明かして得たネズミさんたちの習性が、今後のドブネズミ駆除に役立つのであれば、私にとってこれ以上喜ばしいことはない」――ネズミ捕獲のプロ・山﨑收一氏は書籍『捕獲具開発と驚くべきネズミの習性』(幻冬舎MC)で、そう語っています。

「バネ」を使った仕掛けは全く役立たず…!?

捕獲具を使ってネズミを捕獲しようとする場合、仕掛けに対してネズミがどのような行動をとるかを知ることはとても重要である。

 

例えば昔から使用されている捕獲具に、つるしてある餌に触れるとバネの力で入り口が閉じる仕掛けのものがあるが、仕掛けの構造はシンプルこの上ない。そして、ネズミ捕りと言えばこの仕掛けしか思い浮かばないほど古くから使われてきた。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

この仕掛けは、とても強力なバネで入口が一瞬にして閉じるので、俊敏なネズミはもちろん、その他の生き物を捕らえる仕掛けとしても申し分ない。しかし、閉じる際にとても大きな音がする。

 

この大きい音がする事が問題なのである。

 

性悪なネズミが1匹だけの場合はこれで十分だが、仲間が近くにいた場合には学習されてしまうため、同じ場所でこの仕掛けは二度と使えない。その周辺にいた沢山のネズミたちが大きな音を耳にし、仲間が捕らえられる光景を目にすることになるからである。

 

沢山のネズミが棲みついているのなら、たとえ運よく1匹捕獲できたとしても、この道具だけでネズミを退治することは不可能だと言うことだ。

 

アライグマのような外来生物の場合も、駆除しなければならないと法律で定められているのだが、集団で行動しているなら、同じ理由でバネを用いて駆除するには限界がある。捕獲具の危険性が近くにいた多くの個体に認知され、結果として捕獲できない個体が一気に増えてしまうからだ。

 

捕獲対象が集団で行動していて、そのほとんどを捕獲し駆除しなければならない場合には、バネを使った仕掛けは全く役立たずの道具と言って良い。

「ミッキーマウス」の元になったネズミの種類は…?

ネズミと一口に言っても人と関わりの多い家ネズミと呼ばれるネズミは3種類いる。農村でネズミと言えばハツカネズミのことを指し、小さいのでかわいい生き物として見られることが多く、勿論この大きな籠を使うこともない。

 

ミッキーマウスもハツカネズミを元に作られたキャラクターで、かわいい生き物の象徴として考えているため、外国ではあえて殺す目的で捕獲しようとしない。ついでに付け加えておくと、ミッキーマウスが白くないのだから野生のハツカネズミも白くない。白いと思われているのは実験用に飼育されている生体が白いためである。

 

白イメージがあるハツカネズミだけど(※写真/PIXTA)
白イメージがあるハツカネズミだけど(写真/PIXTA)

 

本当はこんな色。(※写真/PIXTA)
本当はこんな色。(写真/PIXTA)

 

そして、残る2種類はかわいくない方。ふいに足元を横切られた時に思わず声をあげてしまいたくなるほど大きいドブネズミとクマネズミだ。この2種類のネズミが問題なのである。こいつらを身近な場所で見かけ腹立たしい思いをした場合に、この大きな籠を使う。

 

ドブネズミ(写真/PIXTA)
ドブネズミ(写真/PIXTA)

 

しかし、この古くからある仕掛けを用いてネズミを捕獲する場合、ドブネズミは捕獲できるがクマネズミはほとんど捕獲できないことが分かっている。神戸市の港湾局が定期的に行っている捕獲調査では捕獲率に大きな差が有り、手元にある平成18年のデータではドブネズミ52頭1.8%、クマネズミ1頭0.1%である。

 

捕獲場所が主に港の倉庫なのでクマネズミにとって暮らしにくい環境かもしれないが、捕獲数が0ではないので、いるのだが捕獲しにくいということだ。クマネズミは英名roof ratで、名の通り屋根裏に住む大きいネズミのことである。

 

なかなか捕まえられないクマネズミ(写真/PIXTA)
「鼠小僧」の代表、クマネズミ(写真/PIXTA)

 

寝静まったころに頭の上で走り回っているのだから気になって仕方がない。高いところに登るのが得意で、電線を渡って移動することができる。

 

実際、侵入経路が分からない場合に電線を引き込む軒先を調べてみて見つかったことがある。それほど身軽であり、まさに鼠小僧と言える、俊敏で神出鬼没なネズミの方がクマネズミだ。

 

今、クマネズミは都市部で勢力を拡大している。いわゆるネズミ取りのカゴが売れなくなったのも、人口が集中する都市部でクマネズミが増加したことが原因と考えられる。

 

目障りなネズミを捕獲することができないのなら、大きな籠は商品として失格だ。そのことが徐々に分かってきたのだから、売れなくなるのも当たり前だろう。

 

しかし、見た目ではほとんど区別できない2種類のネズミが身近な所に住んでいて、ドブネズミは捕獲できるがクマネズミは捕獲しにくいのは何故だろう。これは大きな謎である。

ペスト流行…「ネズミと人間」の深すぎる関係

クマネズミとドブネズミでは餌の取り方、あるいは仕掛けに対する行動に相違があると考えられるが、この謎が不明なまま放置されているのだから、ネズミの習性に関して、人間がいかに無関心であるかが分かる。

 

この2種の捕獲具に対する行動の違いが解明されて、容易に捕獲具の改良がなされ、クマネズミを捕獲することができる安価な捕獲具が手に入るのであれば、日々クマネズミに悩まされている人たちにとって、こんな有難いことはない。身近な生き物を思い浮かべてみても、そのほとんどが捕獲可能なのに、何故クマネズミは捕獲具で捕まえにくいのだろう。

 

捕獲具に入ったクマネズミの様子をネット上に配信された動画で見たことがある。中々仕掛けの餌を触ろうとしないので、入り口が閉じることはなかった。餌の入った籠をクマネズミが見つけた時に、奴らはいったいどのような思いで捕獲具を見つめ、どのような行動をとろうとするのだろう。

 

ヨーロッパでは過去にペストが蔓延し、人がバタバタと死んでいったことがある。特に1346年に発生したペストでは、当時のヨーロッパの人口の3分の1が死亡し、人々を恐怖に陥れたと歴史書にある。

 

当時、ペストの媒介者であるネズミを駆除することは最重要課題であり、世界中の人々が人智をつくし駆除方法の開発に取り組んだはずである。国内にペストコントロール協会なる組織があって、その名前の由来になっているくらいに、歴史的に見ても人類にとってとても脅威となる災害が過去にネズミによってもたらされたのだ。

 

衛生面で不潔な環境に生息するドブネズミがペスト菌を運んでいるように思われがちだが、実際はネズミに寄生する蚤がペスト菌を運ぶ真犯人なので、きれい好きなクマネズミも媒介者としての資格が十分ある。優れた捕獲具が現在まで多く残っていないので、捕獲具の開発に関してヨーロッパを中心とする多くの研究者が途中で開発をあきらめ匙を投げたと思われる。

 

日本でも、明治になって多くの外国船が入国するようになり、ペスト菌を持ったネズミが船によって海外から侵入することの危険性が指摘されるようになった。当時の政府はそのことを重く受け止め、国策として入国船の防疫を行い、合わせて捕獲具の開発を奨励した。船を一定期間沖合に待機させ、ネズミが生息していないかを調査をした後、もしネズミがいた場合駆除が完了するまで船を入国させない措置を取ったのである。

 

ネズミの捕獲具に関する特許と実用新案の出願数の推移を調べてみると、その多くがこの時期に集中している。研究機関を含め民間にも捕獲具の開発を奨励したのだろう。当時の様子が分かって、実に興味深い。

 

しかし、多くの人が知恵を絞って仕掛けのアイデアを出し合ったのだが、有効な物はほとんど残っていない。試作して試してみたが、ほとんどの仕掛けがネズミたちに一蹴されたのだろう。

 

捕獲具の良し悪しを判定するには捕獲率が重要視されるが、どんなに優れたアイデアであっても相手にすらされない仕掛けでは判定のしようがない。そこで私は、その多くの人たちが成し得なかったクマネズミの捕獲具を一から作ろうと思い立った訳である。

 

【続く】

 

本記事は連載『捕獲具開発と驚くべきネズミの習性』を再編集したものです。

1945年3月、大阪府豊能郡で生まれる。大阪市在住。 大阪府立大学農学部卒。 過去に出版経験なし。

著者紹介

連載捕獲具開発と驚くべきネズミの習性

捕獲具開発と驚くべきネズミの習性

捕獲具開発と驚くべきネズミの習性

山﨑 收一

幻冬舎メディアコンサルティング

ネズミにも感情がある!? 古くから人は、ネズミを捕獲するためにさまざまな仕掛けを考案してきた。しかしながらクマネズミだけは、そのいずれをもってしてもほとんど捕まえることができずにいる。それは何故なのか。新たな捕…

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