「頑張っても成果が出ない」期間に起きている大変化
あらゆる成長には段階があり、【図表】のグラフに示したような曲線を描くことが知られています(『【図表】成長曲線・学習曲線』参照)。これは「成長曲線」と呼ばれるS字カーブで表され、みなさんも実感を持って理解できることだと思います。
例えば、ピアノのレッスンを始めたとき、最初は指もうまく動かず、練習してもなかなか思うように弾けるようにはなりません。そこをぐっとこらえて練習し続けると、気がつけばちゃんと指が動くようになっている。「この鍵盤がド、この鍵盤がファ」などと意識しなくても、自然とその鍵盤に指が動くようになっているのです。
そうなると、いろいろな曲が弾けるようになりますから、目に見える成長が急激に起きます。ピアノでピンとこないなら、パソコンのキーボードも同じです。最初はキーの配列を意識していたはずが、今では自由に文字が打てているのではないでしょうか。
大切なのは、最初の準備期間です。この期間の成長は、自分にも周囲にも見えません。ですから非常につらい。「こんなに頑張っているのに、ちっとも成長しない」と感じてしまうからです。
【図表】のグラフの真っ平らな準備期間は「雌伏(しふく)期間」とも呼ばれます。これは雌の鶏が卵を抱いている時期のこと。鶏は21日で羽化しますが、その間、外からは何の変化も見えません。しかし卵の殻の中では、大きな変化が起きているわけです。
最初はただの「黄味」でしかなかったのが、20日が近づくにつれて、殻の中の雛はしっかり成長し、ちゃんとクチバシも羽もできて、外に出る日を今か今かと待っているのです。同じような劇的な変化が、この最初の準備期間に起こります。それはピアノのように技巧的なものだけでなく、勉強や運動でも同じ。頭や体の中では、目に見えない変化が起きているのです。
つらい準備期間こそ親の出番…わが子にかけるべき言葉
この準備期間に耐えられれば、次の劇的な成長につながるのですが、ここをこらえるのが厳しいために、挫折してしまう人が多いのも事実です。例えば英語のヒアリングなどは、勉強をスタートしてもすぐには聞こえるようになりません。
しかし、ずっと聞いていると、あるとき単語が1つひとつ分かれて聞こえるようになります。そこまでは、勉強している子どもも苦しい。そんなときに「ヒアリングの成績上がらないわねぇ」などとマイナス発言をされれば、子どもはやる気を失ってしまいます。
この準備期間こそ、親が適切な声かけをするタイミングです。鶏の雌伏期間の話をしてもいいですし、過去に子どもがした経験を例に出すのもいいでしょう。例えば、自転車。
「最初は補助輪がなきゃダメだったし、補助輪外したらよくひっくり返っていたよね。だけど、あるときからパッと乗れるようになったでしょう。それと同じことがヒアリングでも起こるんだよ」
そんなふうに伝えることができれば、子どもも「それならもう少し頑張ろう」という気持ちになることができるはずです。親ができるのは、つらい準備期間に「ここを踏ん張れば、ちゃんと目に見える成長が起きる」と、口に出して伝えてあげることなのです。
「停滞期」を乗り越えた経験が、自己肯定感を育む
最初の準備期間を無事超えて、目に見える成長ができたと言っても、そこで終わりではありません。そのまま成長し続けてくれればいいのですが、そううまくはいかないものです。必ずと言っていいほど、「停滞期」は訪れます。これを人々は「壁」と呼びます。人によって壁の程度は様々ですが、ピアノであれば「曲は弾けるようになったけれども、うまくは弾けない」「発表会でミスしてしまう」「コンクールで勝てない」などになるでしょう。
そしてこの壁も、じつは最初と同じ準備期間なのです。壁で止まってしまえば、第1段階の成長で終わってしまいますが、ここでもう一歩努力すると、次の第2段階に上がることができます。もちろんこの壁を乗り越えるのは、とても苦しい。しかし、一度でも成功体験があれば乗り越えられる。これが「自己肯定感」につながります。
「できなかったことが、頑張っているうちにできるようになった」という経験をしていれば、「たぶん、これももうちょっと我慢して頑張れば、できるようになるに違いない」と思うことができます。そう思えれば続けられる。そうすれば、同じように「気づいたらできていた」ということが起こります。
このように考えると、何か1つでも成功体験があるということは非常に大切です。自己肯定感を高め、自分に自信を持つことで、成功の波を乗りこなすことができるようになるからです。親の声かけは、子どもの準備期間にこそ必要です。結果が出たときに褒めるのもいいのですが、子どもにとって必要なのはむしろ、結果が出ていないときの声かけなのです。