●トランプ氏は雇用創出と減税を経済対策の柱とし、米国第1の立場を継続する姿勢を明確にした。
●バイデン氏はIT企業や富裕層への課税強化で財源を確保し、大規模公共投資に舵を切る戦略。
●両公約とも強弱材料があり現段階では選挙結果で単純に株高・株安の反応にはなりにくい内容。
トランプ氏は雇用創出と減税を経済対策の柱とし、米国第1の立場を継続する姿勢を明確にした
11月3日に投開票が予定されている米大統領選挙まで、あと2ヵ月どとなりました。そこで今回のレポートでは、共和党大統領候補に正式指名されたドナルド・トランプ大統領と、民主党大統領候補に正式指名されたジョー・バイデン前副大統領の公約を比較します。はじめに、トランプ氏の主な公約を確認します(図表1)。トランプ氏は、雇用創出と減税を経済対策の柱とし、「米国第1」の立場を継続する姿勢を明らかにしています。
雇用については、10カ月以内に1,000万人の雇用を創出し、100万社の小企業を生み出すとしました。また、手取り給与を増やして雇用を維持するため、減税を実施する方針を示しました。対中政策では、中国から100万人分の雇用を取り戻し、中国から雇用を取り戻した企業に税制面で優遇する政策を公表し、この他、2020年末までの新型コロナウイルスのワクチン開発、処方薬の価格引き下げなどが公約に掲げられています。
バイデン氏はIT企業や富裕層への課税強化で財源を確保し、大規模公共投資に舵を切る戦略
次に、バイデン氏の主な公約を確認します(図表2)。バイデン氏は、新型コロナウイルスの感染拡大により、米国は大恐慌以来の最悪の経済危機にあると訴え、雇用や産業の再建を強調しています。一方で、巨大IT企業や富裕層を念頭に置き、公正な税負担の必要性を訴え、課税強化を公約に掲げています。これらを財源とし、大規模な公共投資に舵を切るという戦略です。
バイデン氏は、環境インフラ部門に4年間で2兆ドルの資金を投じる計画で、また、製造業支援にも7,000億ドルを投じ、500万人の雇用を生み出すと主張しています。財源は巨大IT企業や富裕層への増税でまかない、増税規模は10年で3兆ドル超と試算されます。対中政策は、基本的には強硬路線ですが、関税の見直しを視野に入れています。また、クリーン・エネルギーや環境問題を重視し、新しい医療保険制度も新設する方針です。
両公約とも強弱材料があり現段階では選挙結果で単純に株高・株安の反応にはなりにくい内容
両者の公約を踏まえると、大統領選挙でトランプ氏が勝利した場合、市場にとって、減税方針は好材料ですが、通商や安全保障問題で、中国との緊張が一段と高まる恐れがあることは懸念材料です。なお、トランプ氏の公約については、大まかな基本方針が示されているだけで、例えば減税については税率など具体的な記述はありません。各方針の詳細は今後示されると思われ、注意が必要です。
一方、バイデン氏が勝利した場合、市場にとって、増税方針は懸念材料ですが、3兆ドル規模のインフラ投資や、関税の一部巻き戻しなどで中国との緊張緩和の可能性があることは好材料です。そのため、現時点の公約内容では、どちらが勝利しても、株価が単純に上昇・下落で反応しにくいものと思われます。なお、市場の注目は現在、9月29日に予定されている大統領候補の第1回テレビ討論会に集まっています。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2020年米大統領選挙~トランプ氏とバイデン氏の公約を比較する』を参照)。
(2020年9月1日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
シニアストラテジスト