●安倍首相辞任で、ポスト安倍候補や各派の動きが本格化、新総裁は両院議員総会での選出か。
●両院議員総会は石破氏に不利との見方のなか二階氏の支援意向で菅官房長官が出馬を検討。
●誰が新総裁でも現政権の基本方針は継続、市場の焦点は就任後の政策運営の成否に移行済。
安倍首相辞任で、ポスト安倍候補や各派の動きが本格化、新総裁は両院議員総会での選出か
安倍首相は8月28日、首相官邸で記者会見し、辞任する意向を表明しました。これを受け、自民党は次期総裁選びの手続きに着手し、同日の緊急役員会合で、総裁選の時期と形式については二階俊博幹事長に一任し、9月1日の党総務会で正式に決めるとしました。党幹部の話によると、遅くとも9月15日までに新総裁を決める方向で調整に入ったとみられ、ポスト安倍候補や各派の動きが本格化しています。
総裁選は通常、3年の任期満了時に実施され、国会議員票と、それと同数の党員・党友による地方票の合計数で選ばれます(図表1)。しかしながら、今回のように総裁が任期中に辞任するなど緊急の場合は、党員・党友投票を省いた両院議員総会で選出することができます。二階氏は28日の記者会見で、時間にゆとりがあれば党員・党友投票は考えるべきだが、党内の意見を聞いて判断したいと述べ、両院議員総会による選出を示唆しました。
両院議員総会は石破氏に不利との見方のなか二階氏の支援意向で菅官房長官が出馬を検討
自民党の派閥と主なポスト安倍候補をまとめたものが図表2です。次期総裁が両院議員総会で選出されることになると、地方票に強い一方、党内基盤が弱いとされる石破茂元幹事長に不利に働くとの見方があります。また、直近では、二階氏の支援意向を受け、菅義偉官房長官が総裁選出馬の検討に入った模様で、党内最大派閥である細田派の幹部も菅氏を有力候補とし、竹下派にも菅氏を推す声が広がっていると報じられています。
石破氏は、二階氏や菅氏との連携を模索していたため、戦略の見直しを余儀なくされるとの指摘もあります。他のポスト安倍候補について、岸田文雄政調会長は、党内の有力者と相次いで会談し、支援を要請しており、8月30日には改めて出馬への意欲を示しました。また、麻生派の河野太郎防衛相は同日、総裁選については選出方法をみながら相談して決めたいと述べており、麻生太郎副総理・財務相の判断も注目されます。
誰が新総裁でも現政権の基本方針は継続、市場の焦点は就任後の政策運営の成否に移行済
8月25日付レポート『安倍政権を巡る状況整理』でも解説していますが、新型コロナウイルスの感染が収束していない限り、誰が新総裁になっても、景気に配慮した政策は当面継続される可能性は高いと考えています。また、新総裁の任期は来年9月末までであることを踏まえると、安倍政権の基本方針が大幅に変更されることは想定し難く、市場で政局不安が高まる恐れは小さいとみています。
ただ、日本を取り巻く環境には厳しく、国内では新型コロナの感染抑制と経済活動の両立が求められ、外交では米中対立が安全保障の領域に広がり、米国との連携強化も重要になっています。このように課題山積のなか、来年10月には衆議院議員の任期が満了するため、新総裁は選挙戦も視野に入れ、短期間で成果を上げなければならず、重責を担います。そのため市場の焦点は、すでに新総裁就任後の政策運営の成否に移っていると思われます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ポスト安倍争いの行方と金融市場への影響について』を参照)。
(2020年8月31日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
シニアストラテジスト