まだまだ元気な父に「遺言書を書いて」とお願い
妻の話を聞いて、急に不安になったというBさん。確かに、父が亡くなったとしたら、遺産いえるのは、この自宅と父の口座にある預貯金くらい。父がいなくなったら、きょうだい達は主張をぶつけあい合い、収拾がつかなくなる……そんな光景が段々とはっきりと想像できるようになりました。
「親父、ちょっと話があるんだけど……」
ある日のこと。意を決して、Bさんは父に話をもちかけました。まだ父は元気でしたが、今のうちに遺言書をつくってほしいとお願いをしたのです。きょうだい仲は良かったのにも関わらず、Bさんの妻のほうの相続は揉めていること、きょうだい仲が良くない自分たちは揉めることが目に見えていること……洗いざらい、今の思いを伝えたBさん。
「分かった。お前たちが揉めないようにすることは、親としてできる最後のことかもな」
Bさんの話をじっと聞いていた父は納得してくれたようで、次の日には書店で遺言書の書き方のノウハウ本を買ってきたといいます。せっかく遺言書を作るなら、自分で書きたいというのです。
それから1カ月後のこと。父から「遺言書が完成した」との話がありました。
「いいか、遺言書は、勝手に開けてはいけないらしい。開けるときは、然るべき方法で開けるんだ。それでないと無効になるからな。これ(=父が作った遺言書)は、母さんのところ(=仏壇)の引き出しにいれておくから」
父の思いに「ありがとう」と応えたBさん。それから遺言書の存在など忘れるような日々は過ぎていき、実際に遺言書を開ける必要が出てきたのは、それから10年以上も経ってからのことでした。
Bさんの父の葬儀がひと通り終わった後、Bさんの呼びかけで、きょうだい4人が集まりました。
Bさん「葬儀のあとで疲れているなか、すまない。親父の相続のことで。こういうことは、早めに話しておかないとと思って」
C子さん「そうよね。お葬式が終わったすぐに話すことじゃないかもしれないけど。いずれ話さないといけないことだし」
Bさん「(いちいち、癇に障る言い方だな……)実は、親父、遺言書を残しているんだ」
D子さん「遺言書?」
Bさん「そう、きょうだいで揉めないようにと、もう10年くらい前に書いて、あの仏壇のところにしまっておいてあるそうだ」
Eさん「どうせ、兄さんが書いてくれって、頼みこんだんだろ」
Bさん「(いちいち、癇に障る言い方だな……)これから裁判所で検認を受けて、それから開けることになるから。それから、父さんの遺志に従って、遺産を分けていこう」