他社の見積りを見せたら、500万円の値引きが実現!?
どのカテゴリーの住宅会社を選んでも、契約という一大イベントが待っています。契約にまつわる裏話はたくさんありますが、ここでは値引きについて伝えたいと思います。
値引きは契約前の切り札です。「他社の見積りを見せたら、500万円も値引きしてきた」といった話も聞きます。大きな金額を値引きされれば、誰だって嬉しいはずです。
しかしながら、値引きの背景には、注意すべき二つの要素が隠されています。どちらか一方である場合もありますし、両方の要素を含む値引きも考えられますので見極めが必要です。
一つ目は、そもそも値引きを前提に見積り額を高めに提示していて、大幅に値引きしたと思いこませるケースです。施主がいくつかの会社のプランと見積りを比較検討している場合、他社の見積りが出揃った時点で「当社に決めていただけるなら、ここまで特別にお値引きさせていただきます」と切り出してきます。
値引き分を費用に上乗せしてあったのですから、特別、住宅会社が困ることはありません。それに契約前であれば、まだ金額は決定しておらずあくまで見積り。今後オプションや附帯工事によっては、価格の変動が十分に見込まれます。ということは、オプションや附帯工事で金額はいくらでも変えることが可能になります。値引き額が想定金額より少なく契約でき、さらに大幅なオプションや附帯工事が必要になれば、住宅会社としては万々歳でしょう。
私が経験した中で、最大の値引き金額は1000万円でした。それは、私たちが、ある大手ハウスメーカーと競合したときのことです。旦那さんは当初ハウスメーカーを、奥さんとお子さんたちは私たちを希望され意見が分かれたため家族会議が開かれたのですが、見積り額に500万円の差があったので、一度は私たちに決まりました。
それを聞いたハウスメーカー側が、見積りを一気に1000万円下げ、私たちより500万円安い金額を提示してきたのです。
こんなふうに、競合が出現した場合は値引き合戦が激化する可能性が高くなります。しかし、私たちと競合しなければ、1000万円の値引きは行われなかったのです。
契約のために値引き合戦を仕掛け、自社都合で行う値引きは、同じハウスメーカーで家を建てたお客様に不平等感を与えると思います。あまりに大きな値引き額に不信感を持ち、このお客様は最終的には私たちを選んでくれました。
決算期の「値引き合戦」…しわ寄せは下請け業者へ
住宅会社の決算期には、値引き合戦が特に激化します。棟数や売上げが必要なので、利益が出なくてもいいと考えるのです。たとえばハウスメーカーからディーラーへの部材などの買い付け量があらかじめ決められている場合は、目標に到達しないと仕入れ単価が上がるという不利益がありますから、必死です。
もちろん、見積り額が低くなるだけであれば、お客様としては言うことはないでしょう。しかし、いくら赤字覚悟といっても、それでも少しは利益を残そうとするものです。そのため、そのしわ寄せは下請け業者などに行きます。それが考慮すべき二つ目の要素です。
発注金額の一律カットでやる気を失う契約公務店
私が経験したケースで言うと、ハウスメーカーから下請けへの発注金額が一律5%カットなどということがありました。ただでさえ下請けの利益は大きくありません。そこに持ってきて5%カットですから、現場のやる気もなくなります。
大手ハウスメーカーの契約工務店などは受注しなければ経営がなりたちませんから、しぶしぶ受けることになります。そうしたことが施工品質に影響しないとは言い切れないわけです。しかも短工期で済ませなければ割が合いませんから、一刻も早く終わらせたいという作業になります。そして、さらに工務店の利益を差し引いた金額で、技術よりも安さを重視した孫請けへ外注するといった悪循環が生まれるのです。
モチベーションとモラルの低い建築現場から、優れた品質が生まれるはずはありません。値引きという名の代償は、値引き以上の後悔につながりかねないのです。
値引きはその住宅会社の良心がわかるバロメーターです。正当な利益を工事費に組み込んでいれば、値引けない理由を説明でき、大幅な値引きは出来ないはずです。
貞松 信人
株式会社タマック 代表取締役