最近、巷ではTBS日曜劇場『半沢直樹』が大人気です。前半編で描かれる、「東京セントラル証券出向中の半沢直樹が親会社のメガバンクに戦いを挑み、相手の隙を突く知恵と策略で形勢逆転をしていく」というストーリーは、4話平均視聴率22.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録する大ヒットとなっています。さて、現実世界では、半沢直樹のように資本も人材も限られた状況において、どんな戦略をとるべきでしょうか? 上場企業から中小企業まで幅広く経営支援を行っている森琢也氏が、モノづくり企業の例を参照に解説します。

大手企業も楽じゃない…ブランド力が進化の邪魔をする

シェアの高いリーダー企業の戦略として、ヒット商品の追随が定石として挙げられます。例えば、一眼レフカメラを「引き算」した『ミラーレス一眼』。オリンパスやパナソニックをはじめ、ソニー、ニコンといった大手ライバル企業が市場に参入する中、キヤノンは最後発で参入しましたが、見事に2018、2019年 2年連続シェア1位(BCN調査)を獲得しています。

 

キヤノンもリーダー企業ゆえの悩みを抱えての参入だったと言われます。その悩みとは、フルラインナップ戦略ゆえのカニバニゼーション(共食い)です。闇雲に他社のヒット商品を模倣し、追随戦略を取って商品ラインナップを拡充すると、例えば高級一眼レフの顧客が『ミラーレス一眼』に流れてしまうなど、自社顧客の取り合いや低収益化を起してしまう危険が伴います。

 

そのため、キヤノンも相当緻密な戦略を練って市場参入を行い、成功を勝ち取ったのでしょう。このように、リーダー企業も現行の商品、ブランドといった”資産”があるがゆえ、身動きがとりづらい、変化に対応しづらいという苦労もあるのです。

 

『iPhone』については、日系メーカーでも類似の商品・サービスを開発できたと言われますが、既存製品やサービスとの兼ね合い・位置づけを気にするうちに、市場を席捲されてしまい、取り返しのつかない後れを取ってしまいました。『iPhone』と『ミラーレス一眼』の違いには、半沢直樹が着眼した大手企業の「隙」の有無も挙げられるのではないでしょうか。

大ヒット商品にもいずれ追随が…油断できない企業戦争

さて、もう一つ興味深いトピックがあります。前述に中小企業の「引き算」思考の一例で紹介した入浴剤ですが、大手企業の花王が2020年8月29日より、誰もが知っている炭酸ガス入浴剤『バブ』シリーズに、水道水の塩素を除去する無香料無着色タイプを新発売すると発表しました。リーダー企業が、フルラインナップ戦略として、今まで押さえていなかった領域を補完しに動き出したのです。中小企業メーカー発のヒット商品『薬用ホットタブ重炭酸湯』はこれからどうなっていくのでしょうか?

 

こればかりはまだ未来の話なので、誰にも分かりません。ただし、盤石に思える花王にも、もしかしたら弱みや悩みどころはあるかもしれません。例えば、従来商品は香りや色で商品アピールをしてきた手前、あまり無香料や無着色をアピールすると、既存商品の価値を毀損してしまう恐れがある点です。

 

半沢直樹は、ドラマの中で「資本力の勝負になったら負ける」と認めつつ、弱者が強者に勝つためには、「仕掛ける相手の隙を突く」ことが重要だと説いています。完全無欠に見える大企業にも弱みや隙はあるものです。商品ラインナップの拡充には前述で紹介したようなカニバニゼーションや既存戦略との矛盾を導くリスクも秘めているからです。

 

大企業の参入に恐れ慄くばかりでなく、半沢直樹のように冷静に勝機を窺い、事実に基づく情報分析を行うことで、ドラマ以上の逆転劇がうまれてくる可能性もあるのです。事実は小説よりも奇なり。半沢直樹よりもワクワクさせてくれる新しい風に期待しましょう。

 

 

 

森 琢也

MASTコンサルティング株式会社パートナー 中小企業診断士

プロフェッショナルコーチ

 

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