法律的な親子関係の有無で相続権は異なる
一口に「子」と言ってもいろいろな親子関係があります。「子」とは結婚している両親の間に生まれる嫡出子をイメージすることが多いのですが、最近では結婚していない男女の間に生まれる非嫡出子も増えています。出生総数に対する割合は1970年代後半を底に上昇を続けており、2014年の統計では2.3%となっています(厚生労働省「人口動態調査」より)。
非嫡出子の他にも、社長にとって「子」となる立場には、「以前離婚して前妻が引き取った実子」「後妻の連れ子」「養子」などがありますが、それぞれ相続における権利は異なります。
相続権の基本となるのは、法律的な親子関係の有無です。ですから、もちろん嫡出子には相続権がありますし、実子ではないものの、手続きにより法的に嫡出子の身分を取得した「養子」も相続権を持ちます。また親子関係は離婚や別居によって解消されるものではないので、「以前離婚して前妻が引き取った実子」にも相続権が認められます。
一方、これまで解説してきた通り、非嫡出子の場合は「認知」されているかどうかによって相続権の有無が異なります。認知されていれば相続権がありますし、生前認知されていなかったとしても、死後認知の手続きを踏んで裁判所が父子関係を認定すれば、相続権が発生します。
また、後妻の連れ子は法律的には「子」ではないので、一緒に暮らして可愛がっていたとしても相続権はありません。相続権を与え、相続税や贈与税の特例の対象とするためには、養子縁組を行う必要があります。
相続権がある「前妻との子供」にも相続対策を実施
前妻との間に子供がいる場合には、前述した通りその子供に相続権があります。幼い頃に別れたきり会ったこともないというケースでも、相続権などの法律的な権利は失われないので注意が必要です。さまざまな事情や思惑があって、前妻との間に子供がいることを今の妻に告げていない社長もいると思いますが、相続が発生すると、法定相続人を特定する過程でその子供も自分が持つ相続権を知ることとなります。
相続権に見合う現預金などがあればよいのですが、そうでなければ自社株や事業用資産、自宅などを処分して分割しなければならないこともあり得ます。家族にとっては生活や事業の面で大きなダメージとなるので、生前に相続対策を講じておくことが大切です。具体的には隠し子と同じく、一定の財産を生前贈与することと引き替えに、遺留分を放棄してもらうのも一つの方法でしょう。
それと同時に、トラブルを防ぐためには心のケアも大切です。それまでの関わり方に反省すべき点があるなら、そのことを告げて謝罪し愛情や気配りを示すことで、無用のトラブルを避けることができます。なお、前妻が再婚している場合には、実子が再婚相手と養子縁組をしていることがあります。その場合にも実子の相続権は失われず、実父と養父両方に対して相続権を持つことになります。
【まとめ】
●ハンデを背負わせている分、最大限の愛情を示すことが大切。
●財産を贈与したり、別会社を立てたりすることにより経済的な安心感を持ってもらえると、隠し子も父親の愛情を感じ取ることができる。
●愛情と経済的な援助を受けて心に余裕が生まれると、父親の立場や家族に配慮して、相続や事業承継のもめごとを起こさないこともあり得る。
●隠し子の側には、認知を求める手段として「強制認知請求」と「死後認知請求」といった法的な手続きがある。
●後妻の連れ子には相続権はないため、相続権を与えるためには養子縁組をする必要がある。
●前妻が再婚し、再婚相手が自分の子供と養子縁組していた場合も相続権は消滅しない。
●子供に対しては虚偽のない無条件な愛情を示すべきと考える。
佐野 明彦
新月税理士法人 代表社員