ハーバード、イェール、プリンストン…アメリカの一流大学に軒並み合格を果たした娘を持つ母親は、大学進学までの17年間に何を教えたのでしょうか。意外にも、その子育て方針は、優秀な学歴や特別な能力を身に着けさせるものではありませんでした。※本連載は、薄井シンシア氏の著書『ハーバード、イェール、プリンストン大学に合格した娘は、どう育てられたか』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

好奇心は賢さの第1歩…「知らない」の一言で流さない

「どうして空は青いの?」

 

子どもはみな、この質問をするのだとか。そう聞いた私は、紗良がいつかこの質問をする日に備えて、空が青い理由を調べることにしました。答えを調べているうちに、「どうして、葉っぱは赤や黄色に変わるの?」「どうして、風は吹くの?」など、たくさんの「どうして」を見つけました。まだ、インターネットなんてなかった頃です。調べるためには、図書館へ行くか近所の本屋さんに行き、重たい事典を開くしかありませんでした。

 

では、どうして空は青いのでしょうか。私の調べによると、大気中にある粒子がいろんな色を持つ太陽の光にぶつかって、その中の青い光が空全体に散らばるから。完璧です。他の多くの「どうして?」の答えも準備できました。好奇心旺盛な紗良に、どんな質問をされても大丈夫!

 

ところがある日、動物の絵本を見ていた紗良が、私に尋ねたのは…。

 

「どうして、ラクダさんにはコブがあるの?」

 

おやおや、想定外! 私の準備は万端ではありませんでした。

 

「紗良、ごめんね。ママも知らないの」

 

私は、“ママの仕事”を始めて間もない頃、紗良の質問に答えられなければ、必ず「知らない」と認めることを自分に約束していました。同時に、「知らない」で終わらせることもしませんでした。私はふたつの誓いを立てたのです。

 

ひとつ。紗良の質問には、必ず答えてあげること。

ふたつ。忙しくても、紗良の質問には、忘れず、できるだけ早く答えてあげること。

 

もっとも、幼い紗良の質問に答えるのは、それほど難しいことではありませんでした。ほとんどが、「何?」で終わる疑問文だったから。2歳前の紗良が、最初に発した「何?」を私は今でも覚えています。その頃、私たちはナイジェリアのラゴスにいました。治安がとても悪く、住まいのある一定の敷地内から出ることはありませんでした。ある日のこと、いつも遊んでいる滑り台の上に1匹の大トカゲを見つけました。オレンジ色の頭に灰色の胴体、青い尻尾があり、体長は50センチほど。「ナイジェリアン・リザード」と私たちは呼んでいました。

 

「ママ、あれは何?」

「恐竜の赤ちゃんよ(笑)」

 

時は流れました。インターネット時代の到来です。もう、百科事典の重さに耐えてページを繰る必要もなければ、本屋をあちこち調べ歩く必要はありません。WWW.の出現でふたつの誓いを実行することがいともかんたんになったのです。しかも、私には素晴らしい助手がいました。彼の名前は「ジーブスさん」。私のパソコンの中に住んでいて、24時間年中無休で手伝ってくれる有能な執事です。質問を打ち込むと、即座に解答を導き出してくれるのです(注:「ジーブス」は、Google登場以前に使われていた検索サイト)。

 

その頃、紗良の質問の多くは「何?」ではなく「どうして?」に変わっていました。しかも、その「どうして?」は、思わぬ方角から不意に飛んできました。

 

北風が吹いて、いよいよ冬到来というある日の夕方、キッチンで。

 

「ママ、玉ねぎを切るときに、どうしていつも泣くの?」

 

私は、「豚肉と野菜のトマトソースシチュー」の玉ねぎを切っている最中でした。私は涙をボロボロとこぼしていました。紗良の言う通り、玉ねぎを切ると必ず涙が出ます。私もその理由を知りません。そのとき、豚肉と他の野菜はまだ切られておらず、時計の針は6時を回ろうとしています。シチューをおいしく作るには、1時間の煮込み時間が必要です。しかし、私は自分の誓いを守らなくてはなりません。さあ、ジーブスさんの出番です。私は、キーボードに打ち込みました。

 

「玉ねぎを切るときに涙が出る理由は?」

 

ジーブスさんは瞬く間に、解答を導き出してくれました。私と紗良はパソコンの前に座って、玉ねぎについて多くのことを学びました。涙が出ない玉ねぎの切り方も。

 

「玉ねぎを切るときに涙が出る理由は?」

 

お答えしましょう。玉ねぎを切ると、硫化アリルという成分が蒸発し、それが目や鼻の粘膜を刺激します。これを和らげようと、涙が出るのだそうです。

 

その日、夕食のシチューにありつけたのは、いつもよりずっと遅い8時前でした。

 

 

薄井 シンシア

大手飲料メーカーにて東京2020オリンピックホスピタリティの仕事に従事

 

 

 

 

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