本記事は、税理士である関博氏の書籍『家族のトラブルをゼロにする 生前の相続対策』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再構成したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

年金「月25万円」の夫婦が90歳までに必要な費用は…

■供養などを含めた老後資金の把握

 

最初に訪れた日からちょうど一週間後、源太郎と美千子はY相続センターを訪れた。数日かけて源太郎が作成した簡易診断シートはすでにファックスで送ってある。

 

 

「これが、亀山さんの診断結果です」

 

由井が出してきたのは4ページにわたる分析シートだった。財産の現状や老後資金のこと、相続のシミュレーションや相続税額などが詳細に分析されている。

 

「ただし相続のことを考えるよりも前にチェックしておくべきことがあります。今後亀山さんたちが暮らしていくための老後資金も手持ちのお金で賄うわけですから、そちらについてもしっかり把握しておかねばなりません」

 

まさに、美千子が心配していたことだ。

 

「供養の費用なども、考えておきたいんですけど」美千子がつけ足す。

 

「まずある程度余裕を持って暮らすには年間どのくらいの資金が必要なのか考えてみましょう。現在の厚生年金は月額25万円でしたね。持ち家ですし、それで特にギリギリの暮らし、という感じではないと思いますがいかがですか?」

 

「はい」美千子がうなずく。

 

「特に問題なくやり繰りできています」

 

「それではこの金額をもとに計算してみましょう。月額25万円ですから、年額にすると300万円。美千子さんが90歳になるまでを計算してみると、7500万円かかります。あと先ほど奥様からご質問があった供養の費用ですが、財団法人日本消費者協会が2010年に行ったアンケート調査によると、全国平均でほぼ200万円となっています。お二人分だと400万円ですね」

 

気楽に考えていたが、具体的な金額を出されると決して安くはないという印象を受けた。

 

「お墓にかかる費用は大きさや場所、墓石などによってかなり違います。一般的には、『墓地の永代使用料』『墓石を建てる費用』『永代供養料』『墓地の購入費用』の合計が供養のコストになります。先日お話ししたように、お墓は相続税の課税対象ではありませんから、先に作っておくとそれだけ相続財産を圧縮できる、というメリットがあります」

 

電卓をパチパチと打ちながら由井が続けた。

 

「こういった老後のコストに対して、源太郎さんの年金は月額25万円です。源太郎さんにもしものことがあった場合には、年金は半分に減額されてしまいます。不吉なことを口にして申し訳ないのですが、古希の男性の平均余命15年はお二人でこの金額を受け取り、残り10年はお一人で遺族年金13万円を受け取るとして計算すると、収入は25年間で6060万円になります。年金とは別に、2000万円程度の資金は確保しておきたいところですね」

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

「そんなに……」

 

想定を大きく超える数字に、源太郎は言葉を失った。

 

「はい。数字の大きさに驚かれるかもしれませんが、逆に言えばそういったこともしっかり考えた上で立てた相続対策なら何があっても安心ですよね」

 

言われてみればその通りだ。源太郎はうなずいた。自分と美千子が余裕を持って暮らせるだけの老後資金をしっかり確保できたら、やみくもに節約しなくても、その範囲内で安心して人生を楽しむことができる。

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家族のトラブルをゼロにする 生前の相続対策

家族のトラブルをゼロにする 生前の相続対策

関 博

幻冬舎メディアコンサルティング

平成27年1月、改正相続税法が施行されました。中でも基礎控除の4割縮小により、今まで相続税がかからなかった家族も課税されるケースが増えることが話題となっています。うちの家族は仲がよいから大丈夫、あるいは財産が多くは…

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