東京が悪者なのか?未報道「都内コロナ感染の地域差」を明かす

新型コロナウイルス感染拡大は終わらないのか。8月14日現在、東京都の感染者数は累計16,680人、死者は338人に上っている。お盆休みの今、親族への感染を憂慮し帰省を泣く泣く諦めた人も多い一方、やむを得ず帰省し「自粛警察」の被害に遭う例も相次いだ。しかし、どうだろうか。「東京」は本当に悪者なのか? 内科医・瀧田盛仁氏の提唱とは。※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

報じられない東京都内新型コロナウイルス感染の地域差

■「東京」が悪者なのか?

 

私は東京都立川市で一般内科外来に従事している。夏季休暇のシーズンで、新型コロナウイルスPCR検査を受け陰性を確認してから実家に帰省するという大学生を散見するようになった。ウイルス感染の可能性が低いことを確認するためだ。

 

私は感染拡大の抑制と社会生活とを両立に、検査は欠かせないと考えている。しかし、診療では、御本人だけでなく、故郷のご両親の葛藤を垣間見ることがある。「東京」というだけで。 

 

そこで本稿では、東京都内の新型コロナウイルス感染症の流行状況を「地域」という視点で概観した。現在、新型コロナウイルス感染症の感染者が増加している地域として報道されるのは、「東京」「大阪」「福岡」といった大都市圏や最近、急速に増加している「沖縄」だ。新型コロナウイルス感染症の主な感染経路は飛沫感染のため、人口が過密な地域では感染者が増加しやすい。

 

しかし、このような議論で見逃されている点はないだろうか?

 

これらは都道府県レベルのデータをもとにした議論であり、実は、同じ都道府県内でも地域によって感染の濃淡の差は大きい。東京都内の市町村別感染者数を、人口10万人あたりの感染者数に補正し、図示した[図表]。流行の変化がわかるように月別に新規罹患者数をまとめた(1~3月のみ3ヵ月間の累積患者数を表示)。

 

筆者作成
[図表]人口10万あたりの東京都内の市町村別感染者数 筆者作成

 

3月までの期間は港区、中央区を中心に感染者が増加し、4月に23区全体に拡大。23区外市部の流行は限定的であった。5から6月にかけ感染者数は減少したが、城西地域を中心に感染は続いていた。7月は、新宿区や渋谷区で感染者が顕著に増加している。[図表]は、1桁感染者数が多くなると濃く配色しており、いかに地域差が大きく、また変化しているのが分かるだろう。一概に「東京が危険」と考えるのは早計だ。

 

筆者が勤務しているクリニックでは4から5月の間に実施した抗体検査のデータを解析し、このような流行の地域差がある可能性を学術論文として公表した(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32674696/)。

 

厚生労働省は、6月に東京都(3区)、大阪府、宮城県で合計7,950人に対し抗体検査を実施し、簡易な結果を公表している(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00132.html#h2_free3)。東京都では、板橋区、豊島区、練馬区が調査対象地域であったが、これらの城北地域は感染者数が少なかった地域である。これを東京都の流行状況を反映する結果とは解釈しにくい。現在の「第2波」を検証する際には、ぜひきめ細かく調査を計画してほしい。

8月上旬のコロナ拡大「63%は感染経路不明」

事実上、行政政策の代替機能を果たし、感染症対策の参考となっているのが、職場やコミュニティの単位で実施される抗体検査である。日本相撲協会は約900人の協会員に抗体検査を実施し、相撲を取り巻く環境や感染症対策を行っている状況では、著しい感染リスクは確認されなかったことを公表した。相撲は極端な事例であるが、感染症対策と調査という民間レベルでの地道な努力が「新しい生活様式」を上回る「生活の知恵」を生み出すかもしれない。

 

ところで、感染者数を議論するうえで、留意すべき点がある。それは、新型コロナウイルス感染症の症状や重症度は様々なため、診断は、PCR検査か抗原検査に頼らざるをえないことだ。つまり、このような検査の機会なく見逃されてされている患者さんが存在する。

 

8月1日から11日までの間に報告された東京都での感染者のうち、実に63%は感染経路が不明であるからなおさらだ(東京都ホームページをもとに筆者が算出https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/cards/untracked-rate/)。

 

職場や身近な交友関係者、家族に新型コロナウイルスの流行があることが分かれば、少しの症状でも医療機関受診の機会となり、検査を受ける契機となろうが、感染経路が不明の場合、検査に至るまで時間がかかってしまうだろう。このため、感染経路が不明な「市中感染」は続くと考えられる。

 

しかし、少しでも市中感染を抑制することで、死亡率が高まる高齢者層での流行を抑止したいところだ。実際、今月に入って、世田谷区内の老人ホームでの集団感染が報告されている。8月、世田谷区はPCR検査の機会を積極的に拡充すると発表した。私はこれを支持したい。

 

個別化された流行情報が得られるという点で、追跡アプリに代表されるスマートフォンの活用は有効である。オンラインでの健康相談や診療も医療者との対話を通じて個別化された医療情報を得る良いきっかけとなろう。しかし、実際には、インストールの手間や様々なアプリの乱立で、利用者にとって使い勝手が良くなるよう今後も改善が必要だ。

 

このように、感染者数の増加が著しい東京都内でも流行地域の変動があるため、筆者は国や都道府県レベルでの議論には限界があると考えている。現在、新型コロナウイルス感染のワクチン開発が進んでいるが、新型コロナウイルスは遺伝子変異を起こしやすいRNAウイルスであるため、全面的に感染症対策をワクチンに期待することは困難だ。

 

手洗いや混雑を避けるフィジカルディスタンス、マスクを使用した咳エチケットという感染予防を続けながら、感染者の早期診断と、重症度に応じて自宅や宿泊施設での療養や入院治療の選択というウイルス感染症の基本的な対策を続けざるを得ない。

 

課題はこのような基本的な対策をいかに個々の生活にフィットさせるかであり、「東京」というラベル付けではない。

 

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瀧田 盛仁

医療法人社団鉄医会/ナビタスクリニック立川内科医

 

医療法人社団鉄医会
ナビタスクリニック立川 内科医

山口県山口市出身。2004年、山口大学医学部卒業。2012年、東京大学大学院医学系研究科卒医学博士。

虎の門病院、東京大学医科学研究所附属病院で内科及び血液内科研修後、ベイラー研究所(米国テキサス州)にて膵島移植の臨床研究に従事。2015~2018年、神奈川県立がんセンター治験管理室医長として治験・臨床研究の支援に従事。現在、ナビタスクリニック立川(東京都立川市)及びときわ会常磐病院(福島県いわき市)にて内科診療に従事中。

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

連載医療従事者が本音で語る「日本社会」の現状~GGO For Doctor

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