頑張っているのに成績が伸びないのは、学習法が正しくないからです。たとえば、10回も20回も漢字の書き取りをする、蛍光ペンやアンダーラインを引きながら読むといった学習法は非効率であることが科学的に証明されています。ここでは、中学受験専門塾「伸学会」の代表・菊池洋匡氏が、小学生のお子さんの成績を速やかに効率的に伸ばす勉強法を紹介します。※本記事は『「記憶」を科学的に分析してわかった 小学生の子の成績に最短で直結する勉強法』(実務教育出版)から一部抜粋・再編集したものです。

相互につながっている情報は、数が多いほど覚えやすい

いきなりですが、質問です。たくさんの情報を覚えるのと、少ない情報を覚えるのと、どちらのほうが簡単でしょうか? ちょっと考えてみてください。

 

正解は、「たくさんの情報を覚えるほうが簡単」です。ちょっと意外ですよね。確かに、漢字や英単語を100個覚えるのと10個覚えるのとでは、少ない10個のほうが簡単です。これは、漢字や英単語それぞれがバラバラな情報だからです。もし情報が相互につながっている場合には、情報の数が多ければ多いほど覚えやすくなります。

 

情報が多いというのは、クイズで答えがわからないときに、ヒントがたくさんもらえるというのと同じことなのです。私たちの長期記憶は大きな倉庫のようなもので、記憶をその倉庫の中に仕舞ったり、そこから出してきて使ったりしています。イメージしてみてください。大きな倉庫の中で探しやすいのは、小さな箱ですか? 大きな箱ですか?

 

 

100個の英単語を暗記カードなどでバラバラに覚えるというのは、小さな箱が倉庫の中にバラバラにあるような状態です。探し出すのに苦労しそうですよね。しかし、ちょっと長めの例文の中にその100個の英単語がうまく入っているとしたら、それは大きな箱がドンと置いてあるような状態になるわけです。ある1つの英単語の意味を考えるときにも、それが使われていた前後の文脈から、どんな意味だったか思い出すのは容易になります。

 

こういったイメージで、覚えたいものにまつわる情報を増やしたり、もともと覚えている情報とつなげたりすることで、記憶は思い出しやすくなります。これを心理学用語で「精緻化(せいちか)」と言います。前節にあった「意味を考えると覚えられる(意味的処理)」といった話も、「精緻化」するための方法の1つなのです。

 

●どうしたら「理解した」ことになるのか

 

前節では、意味を考えるというのは子どもにはなかなかハードルが高いということもお話ししました。ですが、だからと言ってあきらめるのはもったいない。いずれはできるようにならなければいけないことですし、国語で問われることの多くは、この「意味の理解」なのです。

 

そこで、この節では意味を考えて理解するとはどういうことかを説明していきたいと思います。未就学児や低学年の子にはちょっと難しいですが、声かけを通じて少しずつ教えていってあげてください。

 

●理解その1…「構造化」

 

これから挙げるものをすべて覚えてください。「ハム」「なす」「にんじん」「キャベツ」「たまねぎ」「鶏肉」「マヨネーズ」「かぼちゃ」「コーン」「ピーマン」
これだけあると、ちょっと覚えきれなさそうですよね。1章で、短期記憶(ワーキングメモリ)で覚えられるのは5〜9個くらいまでだという話をしました。10個は常人の限界を超えています。

 

ではここで、今日のメニューは「夏野菜のカレー」と「コールスローサラダ」だという情報を付け加えてみたとします。するとどうでしょう。カレーに入れる材料として「鶏肉」「にんじん」「たまねぎ」「かぼちゃ」「なす」「ピーマン」、コールスローサラダに入れる材料として「キャベツ」「ハム」「コーン」「マヨネーズ」を使うんだなと考えると、10個を覚えるのもそれほど難しくなくなりますよね。

 

こういったことは実験でも確認されています。心理学者のG・H・バウアーらは、「プラチナ」「アルミニウム」「青銅」「サファイア」「石灰石」「銀」「銅」「しんちゅう」「ルビー」「花こう岩」といった鉱物リストを実験参加者に覚えてもらいました。そのとき、1つのグループには「そのまま覚えてください」と言ってリストを与えました。もう1つのグループには、図のような階層構造を与えました。

 

※市川伸一『 勉強法の科学』( 岩波書店)をもとに作図
鉱物の階層構造 ※市川伸一『 勉強法の科学』( 岩波書店)をもとに作図

 

鉱物の中には金属と石があり、金属の中には貴金属・普通の金属・合金があり、石の中には宝石と普通の石がある。そして、貴金属に属するのが「プラチナ」「銀」「金」といった具合です。2つのグループを比較したところ、覚えることが増えた2つ目のグループのほうが、鉱物名をよく覚えることができました。階層構造を作って情報を整理した結果、それぞれの情報が「精緻化」され、記憶の倉庫から探しやすくなったと考えられます。

 

こういった階層構造を理解するためには、そもそも「金属とは何か」ということを知っていなければいけません。その前の食材の例で言えば、「夏野菜のカレーには(多くの場合)ナスとピーマンとカボチャが入る」ということを知っていなければいけないのです。

 

時々、「知識と理解のどちらが大事か?」といった議論がされることがありますが、そのような問いはナンセンスです。知識を覚えるためには理解が必要で、理解をするためには知識が必要で、どちらもお互いを必要とし合うのです。

 

お子さんにこういった階層構造を理解させるためには、普段から「貴金属ってどんなものがある?」と具体例(下位語)を聞いてあげたり、「貴金属や宝石や普通の石を全部まとめるとなんて言う?」という風に抽象的概念(上位語)を聞いてあげたりすることを繰り返しましょう。

 

●理解その2…「因果関係」

 

先ほどの「構造化」の次に、理解を深めるために役立つのが「因果関係」です。「4.短期記憶を効果的に活用する」でも触れましたが、チェスや囲碁、将棋のプロは、盤面の様子を一目見ただけで、駒や石の配置を覚えてしまうことが可能です。彼らの頭の中には、何百という試合の棋譜が丸暗記されています。これが可能なのは、その盤面に至るまでの意図や原因があるからです。

 

ハイレベルなプロ同士の戦いでは、駒・石の配置に意図や原因がちゃんとあるため、理解して覚えることができます。一方、意図や原因がいい加減な素人同士の戦いの盤面や、ましてただランダムに並べただけのものは、プロでも覚えられません。つまり、「なぜそうなったのか?」がわかることは、記憶を強くするためにとても効果的ということです。

 

ここで例を挙げて考えてみましょう。「お母さんは手が疲れたと言っている。お兄ちゃんは足が疲れたと言っている。お父さんは目が疲れたと言っている。妹は頭が疲れたと言っている」

 

これらを覚えてくださいと言われたときに、誰がどこを疲れたと言っているかの組み合わせは時間が経ったら忘れてしまいそうですよね。ですが、ここでまた情報を追加してみます。

 

「お母さんはママさんバレーをしている。お兄ちゃんはサッカー少年だ。お父さんはいつも仕事で長時間パソコンに向き合っている。妹は勉強家だ」こういった情報を与えられると、途端に覚えやすくなりませんか?

 

 

なぜ「足が疲れた」という結果が起こったのか原因がわかると、それらをまとめて覚えやすくなるのです。ここでもやはり重要になるのが「知識」です。「パソコンで長時間の仕事をすると目が疲れる」「今どきの大人は仕事でパソコンを使う機会が多い」という、もともとある知識がつながることで、因果関係を理解できるのです。先に出した例の「プロ棋士は打たれた駒や石の意図がわかる」というのも、背景には膨大な知識があるからということはわかりますよね。

 

子どもの勉強の例でも考えてみましょう。「新潟県は米の生産量が多い」。なぜなら「新潟県は雪解け水が豊富だからだ」。なぜなら「新潟県も属する日本海側の地域は冬に雪が多いからだ」といった知識がつながると、単に「新潟県は米の生産量が多い」と丸暗記するより覚えやすくなります。これもやはり「日本海側は冬に雪が多い」とか、「新潟県は日本海側にある」といった知識があるからできることです。

 

お子さんには日頃から「なんでそうなったと思う?」ということを考えさせましょう。未就学児の子などは、「なんで? なんで?」と何でも聞いてきますよね。そういったときに上手に対応すると好奇心が伸び、「なんで?」を考える習慣がつきます。

 

●できる範囲で頭を使いこなそう

 

以上、意味を考える上で効果的な枠組みである「階層構造」と「因果関係」についてお伝えしました。こういった知識を論理的に整理する力は、だいたい10歳以降に急激に伸び始めます。中学受験に向けて勉強するタイミングにぴったり合致しますね。

 

それまでの低学年のうちは脳の働きが丸暗記向きなので、この節の内容を完璧に実践しようとは思わなくて結構です。発育には個人差がありますから、11歳12歳になっても、無理をさせる必要はありません。丸暗記が好きなうちは、丸暗記をさせておきましょう。

 

できる範囲で、少しずつ論理的に考える頭の使い方を身につけさせればいいのです。もともとある知識を整理したり、新たな知識をそこに結びつけたりすることが自分でできるようにさせてください。そうすると、学習した内容がすぐに覚えられるようになっていきますよ。

 

【まとめ】

「意味を理解する」ためには、それと関連ある知識と結びつけて、構造化したり因果関係を整理したりするとよい。
 

 

 

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菊池 洋匡
中学受験専門塾 伸学会 代表

 

「記憶」を科学的に分析してわかった 小学生の子の成績に最短で直結する勉強法

「記憶」を科学的に分析してわかった 小学生の子の成績に最短で直結する勉強法

菊池 洋匡

実務教育出版

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