スズキはトヨタ自動車との関係をどうするか
結局、インド社会にスズキが受け入れられたのは、最初から第三者ではなく、評論家でもなく、当事者として入っていって、言うことは言って仕事をしたからでしょう。分け隔てはしたことがない。ですから、インド人は私のことを仲間だと思っていますよ。
この本のなかにも私のことが「生粋のマルワリ商人」だと書かれていますが、私はインド人になったつもりで、インドという国を立派な国にして、さらに、みなさんに豊かな生活を送ってもらいたいと思ったのです。
今の首相のモディさんと会うと、必ず、言われることがあります。
「ミスター・スズキ、あなたはいつ引っ越してくるのか?」
私はモディさんがグジャラート州の首相をやっていた頃からよく知っています。モディさんは経済改革をやってインドを発展させた人で、苦労人ですよ。州の首相時代には浜松の本社に来ていただいたこともあります。本当に苦労を重ねた方でね、インド人の心をひとつにして、インド人が豊かな生活を送ることを願って働いているのが彼です。
2018年の数字になりますが、世界市場において自動車の販売台数は9582万台、インドのそれは338万台です。
当社は2015年に、今後のインドにおけるマーケットを推計したことがあります。2005年から2015年を振り返ってみると毎年、7.9パーセント成長していました。
その延長線上で考えると、インドの自動車マーケットは2030年1000万台になる。すると、現在と同様シェア50パーセントを維持するためには、スズキは500万台になっていなくてはいけない。ただ、2018年、2019年はやや経済成長が鈍化しましたし、今年(2020年)は新型コロナウイルスの影響もあります。2030年の推計数字を下方修正する必要があるでしょう。それでもインド経済が成長していくことは間違いありません。世界でもっとも成長するマーケットです。
さて、当社はトヨタと提携してこれからの時代を乗り切っていくことにしました。うちは中小企業ですから、これまで、ひたすら車を売ることに専念して、幅広く物事を考える余裕がなかった。身の丈に合った車を売ってきただけです。ところが、これからはハイブリッド、電気自動車、コネクティッド、自動運転といろいろなことを考えて車を造らなければならない。そうすると、うちだけではすべてはできませんから、トヨタと提携して指導を仰いでやっていかなくてはならないのです。
ただし、なんでもかんでも「教えてください、先生」と卑屈になってはいけません。スズキが持っているもので、かつ、トヨタが持っていないものを通じてトヨタに貢献する。教わるだけの生徒という立場であってはならない。「なんでも教えてください」という根性ではダメ。お互いに切磋琢磨して、1パーセントでいいから、0.1パーセントでもいいから貢献できるように努力をしたい。
インドではスズキとトヨタで協力して、小さな車はスズキが提供する。スズキは2019年の6月からトヨタに少数ながら提供しています。そして、大きな車はトヨタから提供していただいてスズキブランドで売る、といった取り組みがぼちぼち始まっています。