インドは中国に次いで世界第2位の14億人の人口を誇る。豊富な人口に加え、平均年齢が27歳と中国より10歳若く、中国経済が減速する中、インドの本格的な成長が期待されている。今後、インドは世界市場の「最後の成長のエンジン」となれるのか。鈴木修・スズキ会長がインドについて、世界の自動車産業の未来について語る。本連載はグルチャラン・ダス著『日本人とインド人』(プレジデント社)の抜粋原稿です。

ストライキで「慌てなくていい」と言った理由

さて、1990年代の半ばになると、インドで政権の交代が起こり、私たちとインド政府は、ぎくしゃくした関係になりました。

 

政府の人たちは「スズキは暴利をむさぼっている」と考えたらしく、もっと株主配当を増やせとか設備は

高すぎる、輸入部品は高すぎると言ってきたのです。インド政府とスズキの合弁会社としてスタートしていて、インド政府の方が株式を多く保有していました。

 

しかし、運営はスズキでしたし、スズキが部品を納入していたから、彼らはスズキが儲けていると考えていたのです。実際はそんなことはありません。利益が出たら投資をして、会社の設備を新しくしたり、人を雇ったりしていたのです。そうしないと、競争に勝てないからです。

 

スズキが薄利多売でやっていることはなかなかインドの官僚に伝わらなくて、私もやや感情的になり、「こんちきしょう」と思ったこともありました。しかし、「投資が必要だ」とハート・ツー・ハートで話をして誠意を伝えたら、「スズキは薄利多売でインド産業の技術力のレベルアップに尽くしてくれている」とやっと理解してもらえたのです。そうして一度、ぎくしゃくしたものの、仲直りしてからは順調にやっています。

 

その後、ストライキを打たれたこともありましてね。暴動も経験しましたし……。

 

ただ、私は戦後の日本でも同じようなことがあったのを知っていましたから、対処に困ることはなかった。戦後の日本では労働争議が頻発し、下山事件、三鷹事件のような不可解な事件も起こりました。当時の自称革新勢力が労働争議をリードして、全国の会社でストライキがあったのです。

 

けれども今思えば、あれは、「はしか」のようなものだった。一時の熱に浮かされ、日本人はストライキを打ったのです。

 

インド人もストライキをしたり、暴動をしたりしましたけれど、これもまた、「はしか」だった。インド人もはしかにかかり、そうして治癒したら、落ち着くところに落ち着いたのです。

 

私は「はしか」にかかった日本人を見た経験があったから、ストライキの時に言いました。

 

「慌てなくていい」

 

インド人は農耕民族で工場従業員として働く経験がなかった。だから、工場労働に ついてよくわからないから騒いでいるんだ。放っておけばいつか終わる。

 

案の定、ストライキから三か月経ったとき、3000人中1500人のワーカーが職場に戻ってきました。私は彼らに誓約書を書いてもらってから、工場に受け入れました。ストライキや暴動は、「はしか」にかかった日本人と一緒ですよ。歴史を繰り返すとはよく言ったものだと思いました。

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日本人とインド人

日本人とインド人

グルチャラン・ダス

プレジデント社

インドは中国に次いで世界第2位の14億人の人口を誇る。豊富な人口に加え、平均年齢が27歳と中国より10歳若く、中国経済が減速する中、インドの本格的な成長が期待されている。今後、インドは世界市場の「最後の成長のエンジン…

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