●米中両国は8月15日に閣僚級協議を開催し中国が第1段階の通商合意を履行しているか精査。
●米中とも制裁関税第4弾まで発動したが昨年末に第1段階の通商合意に至り対立激化は回避。
●コロナの影響で中国の履行は遅延も、米国は選挙前の制裁は回避、市場への影響は軽微とみる。
米中両国は8月15日に閣僚級協議を開催し中国が第1段階の通商合意を履行しているか精査
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は8月4日、米中両国が8月15日に閣僚級協議を開き、中国が第1段階の通商合意を履行しているかを精査すると報じました。米国側は米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表が、中国側は劉鶴(リュウ・ハァ)副首相が出席し、ビデオ会議を行う見通しです。閣僚級協議が開催されれば、5月8日以来となります。
ただ、前回の閣僚級協議以降、香港問題などを巡って米中関係が悪化し、市場にも懸念が広がっているため、来週の協議の行方が注目されます。そこで今回のレポートでは、これまでの貿易問題を巡る米中の対立の経緯を振り返り、年初に正式署名された第1段階の合意内容を確認します。そして、それらを踏まえ、今回の協議においてどのような方向性が示されるかを推測し、市場への影響を考えます。
米中とも制裁関税第4弾まで発動したが昨年末に第1段階の通商合意に至り対立激化は回避
はじめに、米中両国による関税引き上げ合戦の経緯を振り返ります。2019年9月1日時点で、制裁関税は第4弾まで発動されていました(図表1)。このとき米国は、①第1弾から第3弾まで総額2,500億ドル分の追加関税について、25%の税率を10月1日から30%へ引き上げる、②第4弾のうちスマートフォンなどを含む1,600億ドル分への追加関税は、12月15日に先送りする、としていました。
①の引き上げについては、その後、時期が2019年10月15日に延期され、また、10月10日、11日の閣僚級協議で、中国と特定分野での部分的な暫定合意に達したため、いったん先送りとなりました。そして12月13日、米国は中国と第1段階の通商合意に至ったことを受け、①と②の発動を最終的に見送り、第4弾として発動していた1,100億ドル分の追加関税の税率を15%から7.5%へ引き下げることを決定しました。
コロナの影響で中国の履行は遅延も、米国は選挙前の制裁は回避、市場への影響は軽微とみる
米中両国は2020年1月15日、第1段階の通商合意として、経済貿易協定に正式に署名しました。主な合意項目は、知的財産、技術移転、食品・農産品の貿易取引などの7項目です(図表2)。中国は、2020年から2021年の2年間で、工業品を777億ドル、農畜産品を320億ドル、エネルギーを524億ドル、サービスを379億ドル、合計2,000億ドルを米国から輸入することになります。
しかしながら、コロナの影響で中国の対米輸入増は大幅に遅れているとみられ、来週の協議では、米国がこれをどう評価するかが1つの焦点になります。ただ、トランプ米政権は、11月の大統領選挙を控え、対中強硬姿勢は維持するものの、国内経済に悪影響が及ぶような判断、例えば、履行が不十分として再び関税の引き上げに踏み切るような判断は避けると思われ、その限りでは、市場への影響は軽微と考えます。
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米中は8月15日に第1段階の合意を検証へ』を参照)。
(2020年8月6日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト