●米国では新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、すでに過去4回経済対策が打ち出されている。
●経済対策第3弾で盛り込まれた失業給付増額措置は7月末に失効し米経済は財政の崖に直面。
●失業給付増額措置は第4弾にも含まれ、週末成立へ、多少遅れても経済への影響は軽微とみる。
米国では新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、すでに過去4回経済対策が打ち出されている
トランプ米政権は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、すでに過去4回、経済対策を打ち出しています(図表1)。1回目は、経済対策第1弾となる83億ドル規模の「緊急補正予算法」です。3月6日に成立し、ワクチンなどの開発費用、公共衛生機関への財政支援などが含まれます。2回目は、経済対策第2弾となる1,929億ドル規模の「家族第一・コロナウイルス対策法」です。3月18日に成立し、個人支援が主な内容です。
3回目は、経済対策第3弾となる2兆2,830億ドル規模の「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法」です。3月27日に成立し、各世帯への現金給付や失業保険の拡充、民間企業支援などが盛り込まれています。4回目は経済対策第3.5弾(第3弾の拡充という位置づけ)となる4,840億ドル規模の「給与保護プログラム・ヘルスケア強化法」です。4月24日に成立し、中小企業の雇用対策の拡大を柱としています。
経済対策第3弾で盛り込まれた失業給付増額措置は7月末に失効し米経済は財政の崖に直面
これら一連の経済対策により、米国景気は持ち直しつつありますが、それぞれの対策には期限が設けられています。そのため、期限までに経済活動が十分な水準まで回復していない場合、経済対策の失効、すなわち財政支援の打ち切りによって、景気に下押し圧力が生じる、いわゆる「財政の崖」が発生する恐れがあります。実際、米国はすでにこの問題に直面しています。
経済対策第3弾では、失業給付について、州による通常の給付に加え、連邦政府が週600ドルを加算する特例措置が盛り込まれました。これにより、失業給付額は、コロナショック前の平均週370ドル程度から1,000ドル近くまで増加しました。この特例措置は7月31日が期限となっていましたが、米議会において期限延長に関する与野党合意に至らず、結局、失効しました。
失業給付増額措置は第4弾にも含まれ、週末成立へ、多少遅れても経済への影響は軽微とみる
失業給付増額の特例措置について、与野党が期限延長で合意できなかった背景には、経済対策第4弾を巡る対立があったためです。失業給付の特例措置は、引き続き第4弾にも含まれる見通しですが、加算額で折り合いがつかず、そもそも、第4弾全体の規模で意見が相違しているため、協議は難航しています(図表2)。なお、米議会は8月7日まで審議を予定しており、その後は夏季休暇に入ります。
経済対策第4弾が打ち出されず、個人消費を下支えする失業給付が大幅に減ったままとなれば、景気の回復力が鈍る恐れがあります。ただ、弊社は今週末にも第4弾が成立するとみており、多少成立が遅れても、米国の貯蓄率は現在20%近いため、貯蓄の取り崩しで消費をまかなうことにより、マクロ経済への短期的な影響は限定される可能性が高いと考えています。
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2020年4-6月期決算~序盤戦は厳しい結果に』を参照)。
(2020年8月4日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト