景気低迷、コロナ禍、少子高齢化・多死社会の到来…。悩み多き現代、心を健やかに保つには、周囲の人たちとの絆だけでなく「お互いを支える技術」が大切です。ここでは、医師として終末期医療、緩和ケアの第一線で活躍し、患者やその家族と深い信頼関係を築いてきた筆者が、相手に寄り添い信頼関係を深める対話術、「傾聴」を軸としたコミュニケーションスキルを紹介します。※本記事は、『傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める』(大和書房)から一部抜粋・再編集したものです。

「受容」という言葉は、他人からの評価に用いられがち

受容という言葉のいけないところは、主に他人からの評価に用いられがちなところです。

 

「私はがんを受容しています」

 

そういうふうに表現された患者さんを私はみたことがありません。自分には使用しない言葉だと思います。

 

「私は失恋を受容しました」

「僕は親父の死を受容しました」

「私は離婚を受容しました」

「僕は子の親権が妻に移ったのを受容しています」

 

普通、言うでしょうか? 言わないと思います。受容は自分以外の人の、自分への評価で語られる言葉です。

 

そしてその言葉が「評価」だけではなく、「目的」として使われると、それはさらに押しつけがましく、また圧迫的な響きを帯びます。

 

「○○さんはがんを受容していない」

「××さんにホスピスに行くことを受容してもらうためにはどうしたら良いのでしょうか?」

「△△さんは病気への受容が悪い」

「□□さんは夫の状態悪化の受け容れがまったくできていない」

「緩和ケアとは治らない病気を受容してもらうことである」(念のためですが、当然間違いですよ)

 

などなど……。

 

けれども、そうやって使われる「受容」。そんなにしてもらうことが重要でしょうか?

 

人は必ず病気になり、必ず死にます。

 

それを皆が完全に「受容する」必要があるのでしょうか?

 

私はそうではないと思います。完全に受容することなど誰もできないと思います。

次ページ相手に「受け止めさせる」という発想のおこがましさ
傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

大津 秀一

大和書房

相手が元気になる「聴き方」。医療・介護現場のプロが必ず実践している、本当の「聴く力」とは? ●大切な人の悩み相談に真剣にこたえている ●自分なりに一生懸命アドバイスもしている なのに、相手が元気にならない……

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