ほとんどの患者に共通している症状がある
白内障にかかるとどんな症状が出るかといえば、ほとんどの患者さんに共通しているのが「まぶしい、かすむ、だぶって見える」です。これらがすべて当てはまる人もいれば、このうち一つ、二つだけ当てはまるという人もいます。
車を運転する方は、事故を起こしたくないことから見え方の変化に敏感で、比較的初期のうちに受診にこられる方が多くみられます。特に、ヘッドライトや街灯、店のネオンが運転の邪魔になるほどまぶしく感じられると訴えてこられます。夜の照明は、健常な眼であれば明るくみやすい環境をつくるはずなのに、白内障ではまぶしくて見にくくなってしまうのです。
白内障では眼でレンズの役割を果たす水晶体が光を乱反射するため、まぶしくなるほかにも、乱視のようにものがだぶって見えることが多々あります。
特に、今まで乱視と言われたことがなかったのに、という人は白内障が原因でだぶりが起こっていると考えられます。にじむ、と表現する人もいます。
一方、もともと乱視がある人でも歳をとってからだんだん強くなってきた、という場合は、もともとの乱視に加え、白内障による光の乱反射が加わった可能性があります。
ゴルフに限らず、屋外でのレジャーや旅行、買い物などで少し遠くのものを見たときにだぶって見にくい場合は気をつけましょう。
白内障にはいくつかのタイプがあり、なかには視力自体はそう落ちていないのだけれどかすんでいる、という見え方もあります。
かすみ目は疲れたときや体調不良のときにもよく起こりますので、一時的なものだろうと放っておかれがちです。しかし、寝ても休んでもかすみが解消されない場合は、疲れや体の具合のせいではなく、白内障が疑われます。
手元の作業時以外でも、「物は見えているんだけど、何となく霧がかかっているような気がする」というのは初期の白内障の人にたいへん多く見られます。
見えていても、白内障は進行している!
見えにくくなったと受診にこられた方の中には、視力検査を行ってもほとんど視力が低下していない場合があります。そんなとき「なんだ、見えているじゃないか」と拍子抜けし、やっぱり疲れのせいかも、そういえば寝不足が続いていたし……と、一時的な不調だと思い込んでしまう人も少なくありません。
そうした人に、ほかの検査結果もふまえ、白内障ですよ、とお伝えすると「視力は悪くなっていないからまだ大丈夫でしょう?」と軽くとらえられてしまうことがあります。
また、すでに以前白内障と診断されたことがあり、一年ぶりくらいに視力検査を受けてみたら悪くなっていないので「白内障の進行が止まったようだから、治療の必要はないですよね?」とおっしゃる患者さんもいます。
残念ながら、どちらも白内障に対して誤解があります。
白内障の進行と視力は、必ずしも連動しません。例えばある程度かすんでいるとしても、視力検査をすると視力自体は出る、そういう人は意外と多いのです。
検査では誰でも多かれ少なかれ、前方の表示をよく見ようと集中力が働くので、普段の生活でものを見ているときよりも、見え方が良くなることは十分考えられます。また、かすみの中でも視力表が何とか判別できることもあるので、視力検査の結果は良くなるということもあります。
でも、検査はほんの数分ですが、日常生活では眠っているとき以外、常に眼を働かせています。そこで常に集中力をマックスに保っていてはそれこそ疲れてしまいます。リラックスしているときでも、かすんだりだぶったりせずストレスなく見えるのが快適な生活には理想といえるでしょう。
それを「ちょっとかすむけど、視力検査は悪くなかった。見えているのだから大丈夫」とやり過ごしてしまうと、どんどん不便になってしまうことは容易に想像できます。「かすむけど見える」ではなく、「見えているけど、かすむ」といったように、不便さを過小評価しないことが大切です。
こうした不便さがどんどん増していき、思わぬ事故を引き起こすなど、トラブルのもとになってからでは遅すぎますし、がまんしながらの生活は決して楽しいものではないでしょう。
眼鏡が急に合わなくなったら要注意
白内障と診断されて一年放置していても視力は変わらない、という例もあれば、急に視力が低下しておかしいと思ったら白内障だった、というケースもあります。それこそ、眼鏡を作り替えて何カ月も経たないうちに、もう合わなくなってしまった、などという話もよくあることです。
加齢による眼の衰え、見え方の変化はその多くが「ゆっくり」です。老眼も、最近手元を離さないと見にくくなったなあと思っているうち、だんだんとその距離が遠くなってきて、というのが普通です。白内障も一般的には数年から十数年かけて進行していきます。だからこそ歳のせいかな、こんなものかな、と放っておかれやすいという難点があります。
しかし白内障と一口にいっても、その内容や進行の仕方にはいくつかの種類があります。その中で、割合は少ないものの、急に進行するタイプもあるのです。
どんな病気でも、急に悪化するものは〝たち〟が良くありません。白内障も、進行のスピードが速くどんどん見えにくくなっていくようなものは、受診が遅くなればなるほど手術の難易度も上がります。場合によっては近くの眼科医院では治療できず、遠方の病院まで行かなければならない、ということも。
もう一つ、眼鏡が急に合わなくなったというケースの背景には、もしかしたら白内障に加え、別の眼の病気が潜んでいる恐れもあります。
視力が低下したり、視野が欠けたりする代表的なものに加齢黄斑変性や緑内障、糖尿病網膜症といったものがあります。いずれも早期に適切な手を打たないと失明につながる危険性が高まります。
また、若いときにスポーツで眼を怪我したことがある人は、白内障も若いうちに発症しやすい傾向があります。この場合も進行が速く、一般的には「その年で白内障?」と思われるような年齢で失明の危機にさらされることにもなりかねません。
眼鏡やコンタクトが急に合わなくなった、ということがもしあれば、白内障も含め眼からの重大なサインととらえ、すぐに眼科を受診しましょう。
歳のせい、疲れのせいと見過ごさないで
見えにくいけれど、まったく見えないわけではないからいいや、とがまんし続けていることでこうむるデメリットは、皆さんが想像している以上に大きいといえます。
戦前の日本人の平均寿命は50歳代でした。そのころは、見えにくさを感じる間もなく寿命が尽きてしまった人が多かったわけです。でも今は違います。男女とも平均寿命は格段に延び、人生100年時代とも言われているなか、単純に考えて人生の半分近くを、眼が見えにくい状態で過ごしていくことになるのです。
ましてや今は、昔は考えられなかったほどの情報量が日々、とびかっています。スマホやインターネットではリアルタイムに、頻繁に、さまざまな情報が発信されており、毎日私たちは新しい情報を目にしています。そのたびに「見えにくいな」「かすむな」などと思っていては、余計な心配を抱えこむようなものですし、楽しみも損なわれてしまうでしょう。
それだけではありません。車の運転やスポーツなどの場では「安全上の問題」もつきまといます。見えにくいことを「仕方のないこと」ととらえないでください。
川原 周平
医療法人 iMEDICAL 川原眼科 理事長
眼科専門医