犬も目が点。認知症進んだ社長、ついに唖然の行動を…
税理士は日々生活を共にしているわけではないので、認知症の兆候に気づかない時があります。きちんと挨拶もしてくださるし話の筋道も立っています。「仕事の疲れからちょっともの忘れをされているのかな」と思う程度ですので、よくよく意識して観察していないと、社長が認知症であることに気づかないのです。
私ども税理士とは違い、日々社長と接しているご家族は本当に大変です。注意しておかなければ数多くの契約や承諾などを平気でしてしまうそうなのです。会社の実印を簡単に押してしまい、聞いたことのない製品がいくつも運び込まれた時には、その後の返品処理が大変だったとおっしゃっていました。
表面上はきっちりしているので相手方もなかなか認知症とはわかりません。社長自らその場で押印されるので、相手も喜んで契約を結んだということです。
しかし社長は契約を結んだ自覚がないので、皆に迷惑をかけても悪いことをしたなどとは全く思っていません。そのため、社員の皆さんや関係会社の方たちも対応に困っていたようです。
そんなことが何度か続き、「このままではまずい」と思ったご家族の方々が、社長が不在の時に会社の印鑑を総出で捜したのですが、どこにもありませんでした。帰ってきた社長に聞いても「ちゃんとあるから大丈夫だ」と返されるだけです。何度も「会社の大事な印鑑がない」と説明しても、まるで商談をしているかのように上手にはぐらかされてしまいます。もともと頭がよく、知恵も働く方でしたので本当に上手にかわされます。
認知症になる前は隠しごとなど何もなかったのに、認知症になった途端に「その人のすべてが隠しごと」に見えるようになってしまったのです。社長に悪気がないだけに責めることもできないまま、ありえない出来事の連続でご家族は疲労困憊していきました。
やがて社長の物忘れは激しくなり、会社の大事なものが忽然と消える事態は収まりを見せません。ご家族と社員で日々探しまわる一方で、当の本人は忘れたことも忘れ、無邪気な子供に戻ったかのようです。
小さい時はきっと木登りが好きだったのでしょう。とうとう会社の門の横にある木に登るようになり、会社で飼っていた犬もびっくりして小屋から出て来ずに社長を見つめるようになりました。
先ほど、裏表がなくきっちりしている社長ほど認知症になりやすいように感じると言いました。では、色々な隠しごとをしている社長はどうでしょうか。もしかしたら毎日「ばれやしないか」と妻の顔色を窺うことで、とても頭が使われているのかもしれません。そして、実はそのおかげで認知症を防いでいるのかもしれませんね。
お客様の中には、毎回「私、ボケていませんか?」「大丈夫ですか?」と聞かれる方がいます。そんな時、私は「隠しごとをしましょう」と言うべきなのでしょうか。