「自宅を公平に分けたい」無茶な願いを叶える方法は?
◆分けられない不動産を公平に分ける
「でも自宅を公平に分ける方法なんてあるのでしょうか?」美千子が眉をひそめた。
「はい。一番単純な方法はいくつかある不動産をそのまま分ける『現物分割』ですね。ただし、自宅しかない場合には法定相続通りに分けることはまず不可能です。次にわかりやすいのが『換価分割』。不動産を売却して代金を分ける方法です。お話をうかがっていると、一美さんがそのまま通ってくれるくらいの近くにお店を構えることができますから、満足してもらえると思います」
「でもそれだと、一太郎は…」
「はい。一太郎さんはご実家そのものに愛着があるわけですから、その方法には反対されるでしょう。そこで出てくるのが、『代償分割』です。特定の相続人の相続分を超える不動産を取得する代わりに、法定相続分を金銭等で支払うというものです。一太郎さんが家を相続すれば、一美さんや次夫さんの取り分は減ってしまいます。その分を一太郎さんが自分の財産や取り分から『代償金』を支払うことで穴埋めするのです。さらにもう一つ『共有分割』という手段もあります。複数の相続人で持分を決定し、共有名義にする方法です」
「みんなで実家を持つというのなら、それもよさそうですね」
「ただこの分割方法だと、売却や建替えなどを行いたい場合、共有者全員の同意が必要となります。また共有者の子供・孫が相続すれば意思統一がさらに難しくなるので、結局のところ売ることも担保提供等もできず、単に『所有して固定資産税を払い続けるだけ』という事態に陥りがちです。近い将来売却する予定を立てている以外では共有は避け、納税資金に充当する等、他の方法をとるのがよいと思います」
「お話を聞いていると、トラブルの少ない代償分割がよさそうに思えます。家の価値は5000万円ほどだから、もし一太郎が相続するなら一美と次夫に1700万円ずつ支払えばいわけか…」源太郎は呟いた。
「でもそんなお金、あの子が持ってるかしら?」
「ならば相続で作ってあげるという手もあります。たとえば子供たちそれぞれを受取人とする生命保険に入っておけば、一太郎さん自身が持っている資金と合わせて、代償分割の原資として使えますよね」
「なるほど」
「一太郎が提案していた、アパートを建てるという案はどうですか?」
「もちろんその案も、有力な候補です。ただし、円満相続を目指す上では、問題点もあります。ご兄弟姉妹の代はよいとしても、その先、お孫さんたちが相続する時には複数の人が所有権や賃借権を持つことになります。これは大きなトラブルの火種です」
「うーん、なるほど」源太郎はそこまで考えていなかった。おそらく一太郎も、さらに言えば、一太郎にその案を授けた奥村税理士も考えていなかったのだろう。
「実際にどうするかを決める前に、他にも憂慮すべきことはいろいろありますから、みなさんの話を聞いていく中で選択すればいいでしょう」