社長が賞与を取るのは「デメリット」が大きすぎ
②なぜ、ひとり社長は「賞与」を取ってはいけないのか?
「社長は賞与を取ることができない」と聞いたことがある人は、多いのではないだろうか? 果たして本当にその通りなのだろうか? 答えは、厳密にいえばNoである。
実は会社法上、役員である社長が、賞与を取ることは禁じられていない。ではなぜ「賞与を取ることができない」といわれているのだろうか? それは法人税法上、役員賞与は原則として損金不算入、つまり「経費に落ちないこと」が規定されているからなのだ。
会社から賞与としてお金が出ているのに経費で落ちず、法人税の課税対象となる。かつ、社長個人には、所得税、住民税が課税され、社会保険料もかかる。二重課税となり、資金繰りに悪影響を及ぼしてしまう。税務上の様々な取扱いの中でも、「最悪の部類」に該当する。そんな理由があり、「社長は賞与を取ることができない」といわれている。
★「事前確定届出給与」とは何か?
しかしそんな役員賞与にも、特例がある。「事前確定届出給与」という制度を活用すれば、社長でも賞与を取ることができ、かつ経費に落とすことができる。この制度がスタートしてすでに10年を超えるのだが、実はいまだに知らない人が多い。
具体的には、「事業年度開始4ヵ月以内」か、「総会決議の日から1ヵ月以内」の、比較していずれか早い日までに、税務署に対して「何月何日に、だれがどれだけの賞与を取るのか」を事前に届出する(設立初年度は「設立日から2ヵ月以内」)。
そして、その届出書記載日に、記載金額通りの支給をすれば、その役員賞与の経費化が確定する。
ただし、支給日や支給金額が異なる場合、「1円たりとも経費として認められなくなる」という非常に厳しい制度なのだ。届け出の必要性とあいまって、イザというときの節税にほとんど使えない。それが、この特例がイマイチ広まっていない理由だろう。
役員報酬を決める際に留意すべき2点とは?
③役員報酬の「金額設定」のコツ
「役員報酬っていくらにしたらいいの?」
これも起業して会社設立をする人から、よく聞かれる質問だ。本項では、役員報酬を設定するコツについて解説しよう。
役員報酬を決める際、次の2点を考えて決めていただきたい。
A)自分や家族が生活したり、貯蓄したりするのに足りる金額かどうか?
B)会社の税金と個人の税金が、トータルで最小化するようシミュレーションする
社長の役員報酬をゼロとして設定することは、税務上何の問題もない(融資審査では生活費の説明がつかないため、悪印象は起こるものの)。しかし、それでは日々の生活はやっていけない。「生活費を会社のお金で賄(まかな)えばいいのでは?」と思うかもしれないが、絶対避けていただきたい。
この場合の経理処理は社長に対する「貸付金」となり、返済がないままであれば、役員賞与として認定されるリスクがある。
さらに、「貸付金=実体のない資産」として、融資審査においてもマイナスになる。よいことは、何もないのだ。たとえひとり会社であっても、会社と個人のお金は別物であり、区分して管理するべきだ。
さて、話を「役員報酬の金額設定」に戻そう。ファイナンシャルプランナー的な話になるが、まずは家族の生活費や将来を見据えて、家計として貯蓄すべき金額を算定する。これが最低限必要な役員報酬金額となる。
「どれくらいの売上があがり、どれくらい経費がかかり、役員報酬を取る前の時点で、どれくらい利益が残るか?」
この見込計算をするのだ。その見込み利益が、役員報酬の原資となる。そして、その見込み利益から「いくら役員報酬を取るのか」を数パターン考えてみる。もちろんA)の「最低必要役員報酬額」を上回る金額にしたうえで、行う必要がある。さらにそれぞれの場合で、会社の税金と個人の税金が「トータルでどれくらいの金額になるのか」を比較するのだ。
最終的に、法人・個人の「トータル税額がもっとも小さくなる報酬額」を選択すべきだ。
顧問税理士がいるのであれば、計算を丸投げすればよいが、独学で行うのはハードルが高いだろう。そんな独学派のために、次回の記事ではシミュレーション具体例を紹介する。そちらを参考にして、理論武装していただきたい。
田淵 宏明
ヒロ☆総合会計事務所 代表税理士
株式会社ヒロ経営研究所 代表取締役
税理士YouTuber