イラスト:キタ大介
事業の利益を、法人と個人に分散して「節税」する
今回は「お金が残る節税策」について解説しよう。お金が残る節税策には、次のようなものがある。
●役員報酬
●非常勤役員報酬
●生命保険
●中小企業倒産防止共済
●小規模企業共済
●出張旅費日当
●社宅家賃
●企業型401K
●決算変更他
いずれも、節税を考えるならオススメしたいスグレモノばかりだ。
個人事業主は、「自分の給与」という概念がないため、給与を取って節税するということはできない。個人事業である限り、「事業で最終的に得られた儲け=事業主の給与」となり、この式を変えることはできない。
一方、法人税には、「社長の給与」として「役員報酬」という概念がある。法人から役員報酬という給与を、社長自身に支給することが可能なのだ。これは、「法人」と「その法人の代表である社長個人」とは別人格であるからこそ、なせるわざ。
もちろん、ひとり会社のひとり社長であったとしても支給可能だ(「不相当に高額でない」等の条件を満たさなければ、経費性を否認されてしまうこともあるが)。
法人の場合、この役員報酬をうまく活用すれば、所得税の超過累進税率を緩和できて、節税が可能になる。
事業で得られた利益を、法人と個人に分散することで節税できるのだ。このメリットは非常に大きい。
なお、役員報酬等のように、個人の給与所得となるものは、個人事業主の事業所得と異なり、所得税の計算上、「概算経費の控除」が認められている。これを「給与所得控除」という(図表)。
個人事業主はこの給与所得控除は使えないが、法人化することによって節税が可能となる(上限金額設定があり、現行税制では給与年収850万円以上は、一律195万円の給与所得控除額となる)。
シンプルにいえば、個人事業主から会社経営者に切り替えるだけでこの概算経費が使える、という意味だ。このメリットは、非常に大きい。
しかしながら、多額の役員報酬を取るのは注意。所得税の超過累進税率の影響を受けてしまい、法人・個人のトータルの税負担で、損をしてしまう可能性もある。税額シミュレーション等を行ったうえで、検討することだ。
会社設立直後に「役員報酬=社長の給与」を決める
①役員報酬を経費に落とすための2大要件
まず、会社設立直後に「役員報酬」、つまりひとり会社の代表者であるあなたの給与を決める必要がある。
法人税法上、役員報酬を経費に落とすためには様々な要件がある。その中でも、中小企業にとって影響の大きなものを2点ご紹介する。それは、
A)定期同額であること
B)不相当に高額でないこと
のいずれも満たすことだ。
原則として、「事業年度の途中で、報酬金額を変更できないこと」を意味する。業績が順調で予想以上の利益が出たからといって、期中で役員報酬を増額しようとしても、最悪の場合、税務否認されてしまう。逆もしかりで、減額も不可だ(ただし、業績不振等の条件を満たせば、役員報酬の減額は可能)。
役員報酬の改定ができるのは、原則として事業年度開始から3ヵ月以内。「新事業年度開始のたびに、一度だけ改定が可能である」と考えていただきたい。毎期、新事業年度開始前に、損益シミュレーションを行ったうえで決定するのがベストだ。
役員報酬の金額決定は、通常株主総会にて決議される。おかしな話だが、ひとり会社であれば、自分一人で議事進行から決議まで行う必要がある。
議事録のひな形がネットでダウンロードできる。それに書き込み、押印をして、保管すればOKだ。
税務調査においては、この総会議事録の整備が非常に重要になる。また、役員報酬未払の状態が長期間続くと、「実体がないもの」として否認される可能性がある。毎月決められた日に、支給することを心がけよう。
同業他社や会社の利益状況等を踏まえた「世間相場」から、あまりにかけ離れている場合、経費否認されるケースもあるので要注意だ。しかしながら、業務のすべての責任を負う代表社長(代表取締役や代表社員)の役員報酬が、経費否認される事例は極めてマレ。
一方、会長職等の非常勤役員で出社日が極端に少ない割に、高額な役員報酬を取っている場合、税務否認リスクが高いので、ご注意いただきたい。
また役員報酬については、受取る社長個人側の税金を忘れてはいけない。役員報酬は、会社経費となって節税効果がある。反面、受取る個人側では給与所得だ。つまり、所得税や住民税が課税され、社会保険料もかかる。
その通り。個人の税負担割合は、「その給与収入や所得金額が大きくなればなるほど、重くなる」ため、バランスを考えることが大切なのだ。