役員報酬「年額2,000万円」の社長がひときわ多い「深いワケ」

経営者にとって「節税」は最も重要な課題のひとつです。しかし実際には「税金弱者」ともいうべき、税知識に乏しい経営者も少なくありません。ここでは、税理士YouTuberとして多くの節税動画を公開している田淵宏明氏が、中小企業経営者やひとり社長に向けた節税の基本を解説します。※本記事は『日本一わかりやすいひとり社長の節税』(ぱる出版刊行)より抜粋・再編集したものです。

イラスト:キタ大介

「役員報酬MAX&赤字決算で税務調査回避」は都市伝説

前回の記事、『多くの社長が知らなかった…「役員賞与」を経費で落とす方法』に引き続き、「お金が残る節税策」について見ていこう。今回はシミュレーションを使いながら具体的に解説していく。

 

④一番トクするための「役員報酬シミュレーション」

 

コンスタントに黒字決算の業績を残し、納税をしていると、税務調査が入る確率が高くなる。100%そうだとはいい切れないが、赤字企業よりも黒字企業のほうが、調査の頻度は高くなる。いまのご時世、税務当局も人手不足。赤字で徴税しにくい会社よりも、指摘事項が多そうな黒字企業をターゲットにするほうが効率的なのだ。

 

中小企業経営者の間でよく噂されているのが、「役員報酬を最大限高額に設定して、決算を赤字にすれば、税務調査は入らない」というものだ。

 

結論を先にいうと、事実ではない。たとえ税務調査に入られなかったとしても、様々なデメリットを被(こうむ)ってしまうことになる。

 

さて前置きはここまでにして、さっそくシミュレーションに入ろう。


下記の図表1のように年商3,000万円、役員報酬以外の経費が2,200万円かかっている会社があるとしよう。この会社の役員報酬控除前の利益は、差引き800万円ということになる。

 

(単位:万円)
[図表1]役員報酬シミュレーション① (単位:万円)

 

この状態で役員報酬の金額につきA~Dのように4パターンを設定して、シミュレーションを行った。

 

A 役員報酬を一切取らない

B 役員報酬を年間400万円とする

C 役員報酬を年間800万円とする

D 役員報酬を年間1,000万円とする

 

「それぞれの場合で、会社にかかる法人税等がどのように変わるのか」を示したのが、下記の図表2だ。

 

(単位:万円)
[図表2]役員報酬シミュレーション② (単位:万円)

 

セツ子★あれ、B~Dの経費が2,200万円以上になってるけど?

 

理由は、会社負担の社会保険料だ。社会保険料負担額を会社と社長個人で折半して計算しているため、この金額にした(※ちなみに社会保険料の負担額はそれぞれの年収を12ヵ月で均等割して計算。大阪府大阪市所在の資本金1,000万円の法人の大阪府在住40歳以上の社長、扶養親族等なしと仮定)。

 

さて法人税だが、800万円と最大の利益が残るAのケースがもっとも税負担が大きくなり、約207万円。

 

CとDは、赤字決算となるため、税額は均等割のみの年間7万円。

 

セツ子★なら、赤字決算のCかDが一番いいんじゃない?

 

そう安易に考えないでほしい。「個人負担の社会保険料や所得税、住民税の負担がどれくらいになるか」を考慮のうえシミュレーションしないと、総合的な税負担がわからない。これを示したものが図表3だ。「所得税法上の扶養親族等はゼロ」として計算している。太枠で囲った部分が、個人の税負担シミュレーションにあたる。

 

(単位:万円)
[図表3]役員報酬シミュレーション③ (単位:万円)

 

この計算によると、当然ながら年収1,000万円と一番高いDのケースが、277万円となり、もっとも税負担が重たくなる。なお、Aのケースのように役員報酬がゼロであれば、厳密には社会保険(健康保険と厚生年金保険)に加入できない。そのため、「国民健康保険」と「国民年金」に加入したと仮定のうえ、会社負担はゼロで、すべて個人負担として計算している。

 

では、法人と個人の税負担トータルで見た場合はどうか?

 

この事例では、Dの年収1,000万円のケースが284万円となり、もっとも税負担が重たくなるのだ。次いでAとCが続く。この利益規模では「役員報酬が年間1,000万円」は、取り過ぎでソンをするのだ。

 

Bのように、法人と個人でほぼ等しく利益を折半するような設定が、税負担がもっとも軽くなった。ただ、どんなときでも、このやり方の節税効果が高いとは限らない。会社の利益規模や、役員報酬金額によって変わる。ケースバイケースなので、ご注意いただきたい。

 

セツ子★でも、CやDは赤字だから税務調査は来ないのよね

 

残念ながら、税務当局にはそんなルールなんてない。さっきいったのは、「黒字会社をターゲットにしたほうが効率がいい」といっただけ。「来ない」なんて、一言もいってない。むしろ、多額の経費が損益計算書に計上されていれば目立つし、それが原因となって調査に入られる可能性も十分ある。

 

また、税務当局が狙うのは、法人税の追徴課税だけではない。一般的な税務調査では、法人税のほか、消費税や源泉所得税、印紙税等の調査も行われる。

 

税金を多めに払ったうえ、税務調査の可能性は捨てきれない。また、融資審査においても、赤字決算を続ければ、マイナス評価となる。

 

セツ子★いいことなんか何一つないじゃない!

 

以上の理由から、「役員報酬を多めに設定して赤字にすれば、節税効果が大きく、税務調査も来ない」というのは、“都市伝説”と考えていただきたい。嘘以外の、何者でもない。

ひとり社長の役員報酬額法人税が「ハネ上がる」ライン

オーナー企業社長の年収は、最大でも2,000万円が多い。上限ではないが、上限っぽい数字、それが年収2,000万円のラインだ。

 

セツ子★資本金1,000万円みたいに、意味のある数字なのね

 

下記の図表4を見れば一目瞭然。年収1,800~2,000万円付近が、ひとり社長が法人・個人合わせたトータル税額で損をしない「役員報酬金額の上限ライン」だ。

 

※大阪府在住 40 歳以上として社保を計算。 ※扶養家族ゼロとして所得税・住民税を計算。
[図表4]オーナー社長の収入と個人の税負担率シミュレーション ※大阪府在住 40 歳以上として社保を計算。
※扶養家族ゼロとして所得税・住民税を計算。

 

なお、この個人の税負担は、所得控除の額が大きくなるほど下がるので、絶対的な率ではない。また、法人に「多額の黒字が出ていることが前提」であって、絶対的な基準ではない、ことをご留意いただきたい。

 

もし法人の所得金額が800万円未満なら、法人税等の負担率は25%程度となるため、たとえ年収1,000万円でも「役員報酬を取り過ぎ」といえる。法人に置いていたほうが、節税になる。

 

セツ子★年収1,000万円の個人の税負担率は、図表の通り27.7%だもんね

 

税負担があまりにももったいない、ということであれば会社に内部留保することをオススメする。将来、引退のときに「社長退職金」としてガッツリ取ればいい。社長退職金には、税制上の優遇措置がある。

 

こういった税制の仕組を理解したうえで、それでも「とにかく個人に財産を残したい」ということであれば、「過大役員報酬」として否認されない範囲で、最大限に役員報酬を取ればいい。あなたの自由だ。ただ、法人のキャッシュが乏しいと、何かあったときに対応手段が減る。倒産ともなったら、役員報酬もクソもないということは、覚えておいていただきたい。

この連載のまとめ

I. サラリーマンと自営業の「経費に落ちる」の意味はまったくちゃう。サラリーマンは、社内ルールの問題。一方、自営業は、税法上の問題なんや!

 

II. 「納税」が国民の“義務”であるならば、「節税」は国民の立派な“権利”。でも「脱税」はあかん! 多額のペナルティーを食らうだけでなく、イメージ低下や信用失墜に伴う売上減少も予想される。商売には何もええことないから、やったらあきまへん!

 

III. 節税には2種類ある。「お金が残る節税」と「お金がなくなる節税」や! まずは会社を防衛したり、貯蓄をしながらできるような「お金が残る節税」を優先すべきや!

 

IV. ビジネス上必要な設備投資があるんやったら、「お金がなくなる節税」を使うのもアリやけど、資金繰りで問題ない範囲で実行しよう。大きな設備投資をする場合、節税効果の高い「特別償却」や「税額控除」を使うのがベストや!

 

V. 「お金が残る節税」の代表例が役員報酬。「定期同額」かつ「不相当に高額でない」等の要件を満たせば、経費に落とせるで! ただし、受取る個人には、社会保険料や所得税等がかかる。法人と個人で納める税金のトータルをシミュレーションしたうえで、役員報酬の金額設定をすることが大事や!

 

VI. どんなに儲かっていても、社長さんの多くが役員報酬年額を2,000万円に抑えている。それは、高額な税負担が理由だ。税金で損したくないなら、それ以上は給与取らんと、内部留保しとこうや。過大役員報酬とされない範囲で最大限に取るのもアリやけど、その分法人のキャッシュが減ることは自覚しときっ!

 

[連載]最小限の儲けでも最大限にお金を残す!「ひとり社長」の節税術

 

 

 

田淵 宏明 

ヒロ☆総合会計事務所 代表税理士

株式会社ヒロ経営研究所 代表取締役

税理士YouTuber

 

ヒロ☆総合会計事務所 代表税理士
株式会社ヒロ経営研究所 代表取締役 税理士YouTuber

“ひとり会社”や中小企業の“節税スペシャリスト”。

大阪府立豊中高校を卒業後、関西学院大学経済学部に進学。大学在学中に税理士試験の勉強を開始する。2000年、大阪市所在・中原会計事務所にて税務申告及び経営コンサルティング業務に携わりつつ、25歳で税理士試験最終5科目合格。2002年、世界4大会計事務所「アーンスト・アンド・ヤング」日本法人にて、国際税務コンサルティング業務を担当。

29歳の時に「ヒロ☆総合会計事務所」を設立。同時に、資格の学校「TAC」の「税理士講座・所得税法」の講師に就任。2017年、『税理士YouTuberチャンネル!!/ヒロ税理士』を立ち上げる。

現在は税務財務のみならず、起業や経営についての講演活動にも注力。

著者紹介

連載最小限の儲けでも最大限にお金を残す!「ひとり社長」の節税術

日本一わかりやすい ひとり社長の節税 〜税理士YouTuberが“本音"で教える〜

日本一わかりやすい ひとり社長の節税 〜税理士YouTuberが“本音"で教える〜

田淵 宏明

ぱる出版

最小限の儲けでも、最大限にお金を残す! これから起業する人も、すでに独立している人も…「ひとり社長」に特化した「節税」の入門書。 所得300万円以上の“個人事業主”は法人化がオススメ!? なぜ、サラリーマンの“…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧